君の人生、変えてあげる。 140
「そ、そうなの?」
まあだいたいそんなものと思ってはいたけれど。
「まあ、後でちょっと…」
「じゃあ、そうしようか」
もちろん興味はある。
ただ、初めて来た場所でいきなりの単独行動に不安があったから…まずはみんなについて行くことにした。
「あった。先月買いそびれたやつ」
磯村先輩が、うすいほんを手にとってそう言った。
周りの表示からみると、ここは同人誌のコーナーのようだった。
同人誌の実物は、初めて見た。
「コミケで買いそびれたんですか?」
「そう。混んでてね」
歩ちゃんの問いに磯村先輩はそう答える。
それを聞いて、そのとき出店側にいたという府川先輩のことが、不覚にも、頭に甦った。
「あ、あの…」
「どうしたの?」
「あの、府川先輩が参加している本って、ここにあるのですか?」
磯村先輩は、フロアごとの案内表がある方向を目で示した。
「あの人のジャンルは、このフロアではない…探してみる?」
「ま、まあ、後で…」
本当に欲しいとか特別興味があるわけではなかったけど、一瞬思い浮かんだので言ってしまった。
「たっくんも気になる作品があったら回ってきていいよ」
後ろで鈴ちゃんが言う。
うーん…元の作品の名前は知っているけど、どういう内容だったか、正直わからないんだよな…
そう思いながらなんとなくそのフロアを歩いていると、その、頭に思い浮かべていた作品の二次と思われる本を見つけた。僕は、立ち止まってその本を眺めた。もちろん、ビニールがかかって、立ち読みは、できない。
「これ好きなの?」
後ろから、高森先輩が、そう声をかけた。
「ええと、正直、もとの話が、どんな話かよく分かっていないので、何とも…」
高森先輩は、僕の肩をポンとたたいた。
「そんなのあとで調べればいいじゃん。買わないで後悔するより、買って後悔する方がいいよ」
「それもそうですね」
僕は、その一冊を買うことにした。そして、また、どうしていいか分からなくなってしまった。
「A館行ってみる?」
歩ちゃんが、耳打ちした。
一瞬ドキッとした。
「…ええと…いいの?」
歩ちゃんに聞き返す。
「私は買うもの決まったし、みんなもそろそろ次に行こうと考えてるはずだから」
「そ、そうなんだ…」
別に興味があるとか、そういうわけではない…ただ府川先輩の言うジャンルの作品ってどんなものかと…
…って、それはやっぱり興味あるんだろうか。
「立ち寄る程度に…」
「うん、わかった」