君の人生、変えてあげる。 139
駅の階段を上って、待ち合わせ場所の改札前に来たら、もう歩ちゃんと伊織ちゃんは来ていた。
「おはよー!」
「おはよー、たっくん」
「おはよう。待った?」
「私たちもさっき来たところだよ」
そのあと、ふたりはしばらく、その前の続きと思われる、僕にはよく分からない話を続けた。
「…ごめん、たっくん、たっくんは、行きたいところとかある?」
話のきりがいいところで歩ちゃんが僕の方に向き直って、言った。
いきなり話をふられて、びっくりした。
「ええと…あの、メイド喫茶、いろんなのがあるんだって?メイド喫茶は、行く予定あるの?」
「うん、先輩がバイトしているところがあって、少なくとも、そこは行く予定」
「先輩って、僕らと同じ高校の人?」
「そう。文芸部で…たっくんは会ってないかもしれないなぁ」
「バイトしていいんだっけ?」
最初にもらった校則で、そこまで気にしていなかった。
「うちの学校は特に禁止ではないはずだよ。他の、公立校だと厳しいかもしれないけどね」
伊織ちゃんが言う。
そうだよな。自由で、僕たちをほとんど大人と認めてくれている高校だからなあ。
最終的には待ち合わせの時刻は少し過ぎたが、ひーちゃん、鈴ちゃん、磯村先輩、高森先輩が来て、今日行くメンバーが揃った。
「お腹すいてない?大丈夫?」
磯村先輩の言葉に皆肯定すると、出発となり、電車を二回乗り継いで目的地の駅に着いた。
うーん、改札を出る前からそれっぽい。
壁のポスターとか、床の広告とか、駅もそのオタク街の一部のような雰囲気だ。
「酒本くんはここ初めてだっけ?」
「あ、ええ…」
高森先輩がいつも通りの笑顔で尋ねてきた。
初めての僕はみんなについて行く形で進む。
最初に向かったのはコミックやDVD、同人誌などを売っている店らしい。
店名「こじをえず」って、何だろう?頭の中でいきなりは漢字変換できない…
「ここは、A館が男性向け、B館がどちらかというと女性向け、っていう感じになってる」
磯村先輩が説明し、一同、B館へ入っていく。
女性向けの館に、僕が入っていいのだろうか?
「あの、僕、ここで待っていましょうか?」
皆、足を止めて、振り返る。
「女性向き、って気になった?どちらかというと女性向き、っていうだけで、男の人も来ているよ」
磯村先輩は、そのように続ける。
「たっくん、A館の方に行きたい?」
歩ちゃん、声をひそめて、
「18禁のところ行っても、多分止められないよ」