君の人生、変えてあげる。 13
僕は教壇の前へ、その向こう側には飛鳥ちゃんを真ん中に5人の班長がずらり並んだ。
まだ名前の分からない1人は、ちょっと背が低めで、眼鏡をかけ、誤解を恐れずに言えばオタクっぽい感じがする。
その班には話したことがある人の名前は見えず、消去法で行くなら、この班ではなさそうだった。
でも…だからと言って…どこか一つを選ぶなんてことが…できるだろうか?
僕は緊張した。
「あ、あの、どこも、楽しそうな班で……僕には…決められません…」
飛鳥ちゃん、少し考えて、周りの4人に言った。
「じゃあ、こういうのは?一日目午後の班別行動、一日目の部屋、二日目午前の班別行動、午後の班別行動、二日目の部屋、でたっくんにそれぞれの班を回ってもらう、たっくんがいつどこに行くかは、これからくじで決める、っていうのはどう?」
「賛成!」
「いいねそれ!」
胡桃ちゃん、歩ちゃんがそれぞれそう言い、他の二人も拍手した。
「たっくんはそれでいい?」
それは、忙しそうだが、それが今考えられるベターな選択肢のような気がした。
「…はい」
「じゃあ決まりだね。これからどこの担当かをくじで決めるよ」
飛鳥ちゃんが5枚の紙を用意する。仕事が早いね。
それを他の班長4人が取り、残った1枚を飛鳥ちゃんが持つ。
―結果、こうなる。
一日目午後:B班(近藤理恵子)
一日目部屋:D班(千葉胡桃)
二日目午前:A班(原田飛鳥)
二日目午後:C班(立川沙羅)
二日目部屋:E班(山岸歩)
…一番最初が例の彼女…理恵子ちゃんっていうのか。
眼鏡をかけてるっていうと、香里ちゃんと被る…ってあれ、香里ちゃん眼鏡じゃないし。
僕は席に戻りながら香里ちゃんに聞いた。
「あれ、眼鏡じゃないの?」
「うん、今日はコンタクト。眼鏡姿覚えてくれていたんだね、ありがとう…昨日はたまたまかな」
香里ちゃんはそう言って頬を赤らめた。
大きい眼鏡が印象的なかわいい子だったが、眼鏡無しでも、どちらでも可愛かった。
「香里ちゃんはどこの班なんだっけ?」
「アスと同じA班だよ…二日目の午前、よろしくね」
その後、班に分かれて班別行動でどこに行くか決める。
僕は班別行動では3つの班に属しているためあまり話し合いに参加できないが、みな
「たっくんはどこに行きたい?」
って聞いてくれたし、飛鳥ちゃんは、3つの班で、僕が行くところがかぶらないように、そして、2日目の午前と午後の間に無理なく班を移動できるように、調整する、って約束してくれたから、それほど不本意にはならないと思う。
それに、このクラスのメンバーと行くことは、きっと楽しいに違いない。
そして、帰りのホームルームを経て…放課後。
胡桃ちゃんが紙片で示した、放課後。
みんなが帰るまで、少し時間が潰せないかと教室を出る。
…ふと思い出して、歩ちゃんたちに案内して教えてもらった売店へ足を運んでみた。
売店にはおにぎりやサンドイッチ、お菓子やジュースなど、一通りの物は揃っていた。
ワイシャツや体操服も売っていて、コンビニと学校の購買部が合体している感じだ。
売店で缶コーヒーを買って、教室に戻る。
窓側で、胡桃ちゃんがポツンと一人、佇んでいた。
「胡桃ちゃん、お待たせ」
胡桃ちゃんは、僕の方に、うつむきながら向き直った。
「来てくれてありがとう…来てくれないかと思った…」
「そんな…」
胡桃ちゃんは、再び紙片を手渡した。
「この場所に、私の一分くらい後に、来て」
そう言って、胡桃ちゃんは目を伏せたまま早足で教室を出て行った。
僕は言われた通り、腕時計で1分測って、教室を出た。
紙片にあった手書きの地図の場所は、体育教官室の横を通り抜けて、運動部のクラブハウスのようだった。
もう、運動部の人は練習を始めているので、閑散としている。
その、更に裏を、地図は指していた。
「おまたせ」
胡桃ちゃんは無言で扉を開いた。
「ここは、校内にいくつかあるシャワー室の一つ。私シャワー浴びたかったから、たっくんも…よかったら。今なら、多分誰も来ない。万一来ても、見ての通り、一人ひとりのブースだから、声を出さなければばれない。大丈夫。たっくん浴びるなら、私は隣で浴びる。水泳に使ったタオル貸すから、終わったらタオル隣に投げて、出て、この場所で待ってて」