君の人生、変えてあげる。 120
「すごい…」
僕の後ろで葵ちゃんがため息を吐いた。
「普段はここは使わないんだけどね。お客さんが来たり、晩餐会のときに使うんだ」
茉莉菜ちゃんが説明する。
「たっくん、こういうお食事経験ある?」
奈緒ちゃんに聞かれる。
「ちょっとは、あると言えば、あるけど、こんなすごい感じでは、なかった」
「私は、はじめてかな。もっと気軽なホームパーティーならあったけど」
僕たちが席につくと、ちょうど僕の母さんと同じか少し若いか、という感じの女性が、何の前触れもなく、現れた。
「皆さん、ようこそ。茉莉菜がお世話になっています。茉莉菜の母の、香椎聡美です」
ああ…この人がそうなのか。
茉莉菜ちゃんのお母さんで、涼星高校理事長の聡美さん…
以前、母さんの卒業アルバムで見た写真とそれほど変わっていない。
茉莉菜ちゃんとは親子というより姉妹に見えてしまう、それだけ若々しく見える。
聡美さんは僕に気づき、近寄ってくる。
「あなたが真央の息子さんね…幼い頃に会ったの覚えてるかな…?」
「はい。酒本拓真と申します」
そう言って、僕は以前お目にかかった、ということを思い出そうとした。
母さんの友達が来た場面、何回かはあるが、あまり明確な記憶はなかった。
「あの、以前お目にかかったことは、何となくは…」
そこまで言って口ごもった僕に、聡美さんは優しく言った。
「いいのよ。あれは、ずいぶん昔の話だし」
聡美さんは、一旦言葉を切って、こう言った。
「何か、実験的なことに、巻き込んでしまってごめんね。どう?学校生活は?」
「はい、とても楽しいです」
僕の今の率直な感想だ。
それを聞いて茉莉菜ちゃんや胡桃ちゃんが微笑んだのがチラッと見えた。
聡美さんも笑顔を見せると
「君を編入させたのは、今後に向けた実験というのももちろんある…でも、一番の目的は、真央のためだったの」
「母のため…?」
「うん…真央は強い子だから絶対に言わないだろうね。君が前の学校で辛い目にあい、旦那さんも事故で亡くして、憔悴していたから…」