君の人生、変えてあげる。 104
母さんはニコリと笑って「そうなの」と言うだけ。
何度もあればもう当たり前にもなるのだろうか。
自分の部屋で、まずは明日のプールの準備。
タオルとキャップ、水中メガネ、一応学校用の海パンも持って。
律ちゃんがお兄さんの使っていた水着を持ってきてくれるらしいが、どんなものだろうか?
そう考えながら、僕は、準備を終え、眠りについた。
翌朝、朝食を食べて、僕は自転車で、市民プールに向かった。
朝だが、今日も暑くなりそうな日差しが感じられ、泳ぐにはちょうどよさそうだった。
そういえば、学校の授業は屋内だし、外で泳ぐのは、今シーズンでは初めてだった。
着いたら、昨日の2組の子が、日陰によりかかってスマホを操作していた。その子は、僕をみて、スマホをしまった。
「おはよう、酒本君」
「おはよう、西村さん」
西村さんはちょっと口ごもってから、言った。
「1組の子は、下の名前で呼んでいるんでしょう。私も、下の名前でいいよ」
「あ…うん、よろしく、葵ちゃん」
「よろしくね…えっと、拓真くん?」
「みんなからは『たっくん』って呼ばれてる」
「じゃあ、私も、いいかな」
「うん」
「よろしくね、たっくん」
微笑む葵ちゃん。
可愛い。さらに、制服のとき以上に、胸のふくらみが目立っている…
ほどなく、律ちゃんは歩いて(おそらく、ここの前までバスで)来た。
「おはよう、たっくん、葵ちゃん」
「「おはよう」」
律ちゃんは、すぐに紙袋を取り出して僕に渡した。
「昨日言った、兄貴の海パン。よかったら」
「ありがとう」
そのあと、奈緒ちゃん、胡桃ちゃん、と相次いで到着したので、この袋は更衣室で一人になるまで開けないことになる。
少し雑談しているうちに、黒塗りの、要人でも乗っていそうな車が近づいてきて、僕たちの近くで止まった。
僕は、緊張したが、他の人は変わらずしゃべっている。
「おはよう」
茉莉菜ちゃんが降りてきた。
さすが理事長の娘、お金持ちなんだなあ、と改めて思った。
「おはよう、茉莉菜ちゃん」
声をかけるが
「たっくん、ビビリだね?」
…ええ、若干声が上擦っていたかもしれません。
だってアナタ…
「…いつもこんな感じなの?」
「今日はたまたまだよ」
やだなぁ、と茉莉菜ちゃんは顔の前で手を横に振る。
全員揃ったところでプールの入り口へ。
「じゃあたっくん、また後で」
胡桃ちゃんが言う。
いまや男女別の着替えというのが、少し違和感がある…というと、僕もあの環境に慣れた証拠なのだろうか。