生徒会日和。 88
買い出しへ行った彼が何者か気になるところだが、僕もみんなに続いてあやせさんと一緒に別荘の中へ。
天井と壁は白が基調になっており、窓も大きくて晴天なら昼間は照明なしで過ごせるくらいだ。
リビングや食堂も広い。
そして室内からでも海を見ることができる。
「2人部屋が基本だけど、樹くん、どうする?」
あやせさんからそう聞かれる。
歩さんは真希さんの髪に(本当に触手みたく)捕らえられているから、多分アレはアレする都合で同じ部屋になるのだろう。
お手伝いさんとやらは他の別荘のヘルプにも出る都合、あやせさんの所へ住み込みという訳ではないそうで、親戚宅から通っているらしい。
それで二人部屋に男三人押し込まれる心配はなく、普通に考えれば僕はハヤトさんとの相部屋が普通だろう、が。
「ハヤトくん、まさか私の従者という任を放棄して、樹くんの部屋に逃げる気じゃないでしょうね。」
「え…樹くんが大人の男性と同じ部屋…やっぱりそうなんだ…そうだよね…?」
茜さん幾ら兄妹や親戚みたいな付き合いでも、ハヤトさん本気で困ってますから。
あと葵さんナニがそうなんだ、薄い本事件以来からジワジワと発酵されてるんじゃないでしょうか。
「異議あーり!!」
某裁判ゲームのごとく勢いよく手を上げたのは姫さんだ。
「男の人が男の人と相部屋が当たり前?いやそれは違うね!執事さんとお客さんである樹くんは分かれて考えるべきだと思うな!」
「それは樹と一緒の部屋がいいってことだろう、お嬢ちゃんよぉ」
「うっ」
梓さんに本心を突かれビクッと反応する姫さん。
…一気に姫さんから漂う小物集。
「2人部屋を3人で使うくらい別に問題ないんじゃないかなぁ」
そして滅茶苦茶なことを言い出す小坂井ツインズの姉・茉莉花さん。
…俄かに僕の身が心配になってきたのですが。
「ならば私が中立の立場として、樹くんの身柄を引き受けましょう。」
今まで黙っていた亜里沙さん、剣道より剣術寄りの発想を持つ彼女の場合、物理的な危険が伴う。
おもむろに手頃な棒切れを拾い、なければ抜手や手刀で稽古の申し出、断るとものすごく寂しそうな顔をするのでなるべく付き合う様にはしている。
しかし、えげつない角度からの小手や脛こそ慣れたが時折容赦ない金的、丸めた新聞紙でさえ脳震盪を起こさせる渾身の面…いやカブト割りは洒落にならない。
僕の知る限り亜里沙さんのカブト割りを食らって無傷だったのは奴一人だ。
「武芸者として君には色々と聞きたい事が出来…。」
「亜里沙ちゃんずるーいっ!えっちー!」
「稽古とか言ってセクハラする気だー!」
小坂井姉妹の反論にも亜里沙さんは眉一つ動かさない、かなり真剣だ。
「まーまー、いつまでもこう言い争ってたら埒が明かないし、平等に恨みっこなしで決めたらいいじゃない」
真希さんがやんやの言い争いをする面々を諌める。
「樹くんと同じ部屋を希望する人は挙手を」
真希さんが言うと、葵さん・早紀さん・梓さん・姫さん・亜里沙さんに、さっきまで姫さんの陰に隠れてオロオロしていた蜜恵さんもおずおずと手をあげる。
同じように挙手した小坂井姉妹については
「一部屋二人のルールは守らないとダメよ?樹くんを雑魚寝させることにもなりかねないから」
と釘をさす。
「う、うぅ…」
「わかりましたぁ…」
これが茜さんあたりならやんやの反抗を見せる双子だが、会長よりもやり手の真希さんの前では逆らえない。