生徒会日和。 49
しばらくして、お互い服を着直して。
「樹くん、ありがとね」
「えっ?」
「私…自分のことで悩んでたんだ」
「それは…?」
「ちょっと秘密にさせてね。でも、樹くんのおかげで、その悩みは捨てることが出来たから」
「そうですか」
「真希さんは、今の真希さんのままでいてくださいね」
「当然よ。私を、こんなに思ってくれる人が傍にいるもの」
そう言って、真希さんは不意に僕の唇を奪った―
―さて…
1学期の中間地点。
入学してからの初めての試験も終わり、成績も返ってきた。
「さすが樹くんだ」
熱田さんに茶化される。
僕の成績はめでたく学年トップ…そのおかげで生徒会の推薦枠に入れたというのがあるんだけど…
あんまり大っぴらにされたくはないな。
授業後。
「穂積くん、この後個人面談だけど、大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
クラス担任の刈谷麻由美先生に呼ばれた。
…実は、刈谷先生もまた、僕の姉と同級生だった人なのだ。
クラスのみんなが帰って刈谷先生と僕だけになったところで、個人面談が始まる。
この個人面談は各学期ごとに全生徒に行われるものらしい。
「まあ、成績のことで穂積くんにとやかく言うことはないね」
「そうですか」
「断トツで学年のトップだもの。担任の私にとってもうれしいことだよ」
この個人面談で、先生に聞かれるだろうことは想像できていた。
「…で、穂積くんは生徒会役員で、剣道部にも練習参加してるんだよね?」
「はい」
「両方やるのも大変だね」
「まあ、やりがいはありますよ」
「うん、それはいいんだけど」
先生が真剣な表情になる。
「生徒会長の柏原さんから、いろいろと話を聞いてるんだ」
…この前、会議で明かした話だろうか。
刈谷先生は、去年までの2年間、歩さんのクラスの担任をしていたそうだ。
「学校や生徒会の方針で、辛いのに無理して剣道部に参加してるようだって…」
「ま、まあ、それは…そんなに大したことはないですけど…」
「渚ちゃんとも、あまりいい関係ではないのね」
「…」
そこを突かれると、何も言えなくなる。
「穂積くんの中学時代の剣道の実績を見ると、有名人クラスなんだよね…でも、穂積くんが渚ちゃんの弟だって知ったのは、君が入学した後のことなの」
「そうですか…」
「渚ちゃんも、自分の家族のことは、あまり話さない子だったから…」
穂積渚―僕の姉は、この桜樹台の生徒会長であり、剣道部全国優勝に導いた主将である。
『見た目は凛々しくて、いかにも和風美少女』とは、今の剣道部の顧問で姉の級友であった守山さやか先生が僕に語った当時の印象である。
当時は学年どころか学校を超えてファンクラブがあったそうな。
その反面、気難しい性格で、仲のよかった数人の友人以外とは滅多に話すことはなかったらしい。
自分にも他人にも厳しい性格で、正直僕も苦手だった。
「僕、正直、姉のことは苦手で…」
「それも聞いてる。渚ちゃんは悪い子じゃないんだろうけど、シビアな性格だからね」