生徒会日和。 164
アレをワッショイ!と投げ返したのが、どっちか解らないが随分と爽やかな切り返し。
そしてルール的にはセーフでも、僕としては脊髄反射レベルの動作でタッチアウトを狙ったキャッチャーのネバーギブアップ精神を評価したい。
(観客?がボールを投げ返してもホームランは揺るがない)
「オォウ!ファンタスティック!」
僕を野球少年時代の回想から引き戻すが如く、ベンチにいたアリスが吼え竹林に向けて走り出し、それを梓さんが『かなり必死で』止めていた。
「待てアリスちゃんや!何処に行く!」
「離して梓サン!あの遠投でミットを狙えるなんて…。」
「いや待てアイツら今…えーとその多分…まだ裸だから!」
「マーベラス!日本の球児は裸がユニフォームってフィクションじゃなかったんですね!背中にボールの痣があるんですね!」
う〜む梓さんの失言をどう解釈したのでしょうか〜、アリスのベースボール・スピリッツの真っ芯にカキーンとこう、いわゆるひとつのナイスな拍車がかかってしまった様ですね〜。
もうイヤな予感しかしない。
「侍ジ○イアンツです!イ○キマンです!ア○アンリーガーです!」
些かニッチな野球ジャパニメーションのタイトルを叫ぶアリスが青い瞳を輝かせ打席に立つ。
ベンチでは梓さんが珍しく青い顔、実際相手側でアリスの豪打を止められるピッチャーはいない。
そこへよりによって一投目から敬遠狙いのボール球。
それ絶対ダメ、アメリカで野球好きな人種に火を付けるだけ。
「ぱぱらぱっぱぱ〜ん!ちゃ〜じ!」
アリスが騎兵ラッパをモチーフにしたメジャーリーグ定番のテーマを口ずさむ。
二球目ボール、だからダメだって言ってるのに三球目もボール。
アリスは一球目の敬遠からずっとフルスイング姿勢の挑発、相手ピッチャーは完全にビビッていた。
僕は知っていた、確実に何かしら事故が起きるサイン。
投手戦展開に実直かつプレッシャーに弱いピッチャーと、試合のテンションに酔い易いバッターの間で起こり易い事故。
「じぇろにもぉおおお!」
すっぽ抜けのデッドボールか、打ち所の悪いピッチャー返しか、例えソフトでも高校生レベルなら洒落では済まない。
僕が制止しようと窓を開けた瞬間…盛大なファールボールを顔面に頂いた。
その衝撃ときたら半端なものではないのは当然で…
あ、鼻の骨は大丈夫です。歯も折れてません。奇跡的に無事でした。良かった良かった。
「…んん…どうしたのよ、樹…あれ、そんなところにうずくまって何してんの?」
「あ…いえ、別に何も」
さすがに歩さんも目覚めた模様。
「相変わらず梓が絡むと騒がしいねぇ」
歩さんは飛び込んだボールとそれを食らった僕を他所に窓を覗き込む。
「部活動の活性化は大事だけど、どうもそのベクトルがおかしなほうに向いているね」
それは今に始まったことでは…
「それにしてもあの留学生ちゃんはなかなかいいじゃない」
「ああ、アリスですか」
歩さんはどうやらアリスのことを相当買っているご様子。
「ウチの学校もインターナショナルになったよね。いろんな国の人が入ると私たちも刺激になる、勉強になる」
「そうですねぇ」
「まあ…空手がどうとか、あれはちょっとどうかと思うけど」
あれは空手じゃなくて…と歩さんに突っ込むのも億劫になってきた。
「これで部活も強くなるといいんだけどね」
窓から覗き込む歩さん。
ソフトボール部は秋からの新チームで県大会準優勝。
まあ、アリスと梓さんが加わっての結果だ。