先生教育委員会 7
不覚にもドキッとした。
なにせ、「尊敬されてください」で「赤のゴム」だ。
もちろん、この男はそんな気はサラサラないのだろうが……。
「今日はなに?顧問の役得で放送室でランデヴー?今朝、騒いでいたもんねえ」
「んなっ?」
俺は驚き、相上の顔をマジマジと見つめた。
軽薄さと冷静さが混じり合う、見慣れたニヤけ面だ。
変なところで妙に鋭い。
そんな俺の眼差しをどう受け取ったのか、相上はもう一度、肩をすくめると立ち上がった。
「冗談だよ。冗談返しってやつ?そんなにマジになるとは思わなかったのさ。ゴメンよ。ささっ、皆が大嫌いな物理の授業でもしにいくかな〜」
俺は立ち去る同僚の背中を目で追っていたが、予鈴が耳に届き、あわてて一時限目の教室へと向かった。
あっという間に午前の授業は終わった。
授業、と言っても大半が眠るかケータイをいじくるかをしている生徒相手の、だが。
久し振りに訪れた放送室には、真田が半泣きで立ち尽くしていた。
「ぜんぜ〜」
なんだこれは……。
全く意味がわからん。
訳を聞くと、来る予定のもう一人が早退して放送ができないらしい。
アナウンサー一人では機器を操作できず、曲やBGMが流せない。
故に、為す術なく立ち尽くしていたわけだ。
「……俺がやろうか?」
「ホントですか!?」
相変わらず切り替えの早い奴だ……。
基本操作は心得ている。
名ばかりとは言え、その辺は流石顧問ってとこだろ?
「じゃあ、私が手を上げたらコレを流してくださいねっ」
「へえへえ……」
なんとか事なきを得られそうだ。
「で、私は何をしたらいいんですか?」
放送開始までの間、真田はハムハムと弁当を頬張りながら訊いてくる。
「……何の話だ?」
っていうのは俺の口癖か?
「体罰ですよ、た・い・ば・つ」
真田は嬉しそうに声を弾ませる。
「どうして真田に体罰を与えなきゃいけないんだ?」
相方の早退はお前のせいじゃないだろうに……。
「だって先生、私を注意したでしょ?走り回るなって」
なるほど、確かに。
「悪い事をしたら罰を受けるんだよ?」
だから真希は校則違反を指摘させたのか。
校則違反は悪いことだからな。
「ねえねえ先生、早く〜」
求めるな!
どこか背徳感が漂うだろっ。
ただでさえ放送室っつー密閉された空間なんだからっ。
「い、今じゃなくてもいいだろ?」
……ってやる気になるな、俺。
「やだやだっ。イヤなことはサッサと終わらせたいのっ」