先生教育委員会 4
給料日前だってのに、生徒に言われるがまま髪切りに行くなんて……俺もどうかしてるな……。
だいたい、髪切ってどうなんだよ?
これで尊敬されたら世話ないよな……。
そんなことを、真田に体回りをキョロキョロ見られながら思う。
「うんうんっ!いいよいいよっ!」
どこのオヤジだ、キサマは……。
「せんせ?今日は来てくれますよね??」
「……何の話だ?」
思ったことがそのまま口から出てしまった。
「ひどーいっ!今日は私が当番なんだよ?」
真田は細い腰に両手を添え、誇らしげに胸を張る。
動きが一々でかいためか、長い水色の髪がフワッと揺れた。
「あぁ……放送当番か」
放送当番。
放送部員が昼休みの時間にラジオの真似事をする……今日は真田の番らしい。
そして、昼休みに来いと言われた俺は放送部の顧問。
……名前だけのな。
「来ますよね!?」
何で真田はそんなに強気なんだ?
まるで俺には選択の余地が残されていないみたいに……。
「……っ」
顔色が変わったかもしれない。
未だ真田の細い腰に添えられた、手。
白く、ほっそりした手首には赤いゴムが巻き付いている。
3Bの生徒がそれをつけるのは……体罰容認の証。
――尊敬されてください。
真希の言葉が脳裏を過ぎった。
「ねっ?!」
小さな体を少し前へ倒し、俺の視界に割り込んでくる真田。
「……そうだな。たまには顔を出すか」
胸を張って卒業させてやらないとな……。
「ほぉーんとですかぁ!?」
……なんでコイツのリアクションは一々大袈裟なんだ?
長い髪がポンポン跳ねてるぞ、オイ。
「……廊下を走り回るな」
俺の回りをくるくる走り回っている真田。
あたかも小動物のように。
それを注意した途端、真田はハッとして……と言うか、声に出して、ピタリと動きを止めた。
「叱られちゃったよぉ……」
「そんな落ち込まなくても……じゃ、職員会議があるからまた後でな」
俺は気付いていなかった。
生徒を……3Bの生徒を注意することが、何を意味しているのかを。
何時もより注目を浴びながら職員会議に臨み、進路やら修学旅行やらの議題を取り上げ、朝のショートホームルーム(SHR)に向かった。
教室の中…。
ガヤついている…と言う言葉で表現すれば。
動物園の猿山もガヤつく手前の事だろう。
だが今さらだ。
教室の中で飲酒等をされないだけマシだった。
そんな喧騒の中、自分の席についてジッと俺の方を睨んでいる生徒がいる。
篠田沙希…真希とは双子の姉妹であった。
容姿的にはかなり似ているももの…。
真希にはない眼鏡とその取りつく島のない性格。
二人を比べるとまさに陰と陽、コインの裏と表といった感じであった。
ん?しかし今日は…。
普段よりも席に着いている生徒…多くないか。