先生教育委員会 3
バサッ…バサッと白い布の上に落ちてゆく髪の固まり。
お…おい、冗談だじゃなぞ。
此処まで髪を切ったのも学生の時以来だった。
俺は何とも奇妙な物を見る様に鏡の中の自分の顔を見つめた。
「カラーリングはどうします?顔立ちはいいから明るい色なんか似合うと思いますよ」
まさかお姉系という事はないのであろうが…やたらとニヤついた店員が愛想笑いを浮かべている。
「こ…この通りで…」
結局、言っちまった。
我ながら情けない。
しかも…このナヨっとした色白の店員は俺の答えが気に入らなかったようだ。
鏡に映る俺の顔。
その顔の上で…店員が細い顎に、やはり細い指先をあてて考え込んでいる。
「あ…あの…」
「お兄さんはもっと明るい色の方がいいって」
「は…はい」
こんな店員にすら簡単に押しきられる俺。
しかし…何回、我ながら情けないと思う事やらだ。
こんな調子の俺に体罰なんて本当に出来るのか?
髪を切る羽目になった事とセットで俺に押しつけられた課題。
かなり重い課題だった。
そもそも、体罰を求める生徒とそれにうろたえる担任教師――第一歩目からして間違っているだろ。
確かに俺が子供の時にもそういう熱血教師はいないでもなかった。
あの熱血って、生徒たちの中で好き嫌いが別れるんだよなあ。
……ん?
なら、クラスの『総意』である以上……やっていいってことなのか?
取りあえず、帰りに熱血学園系ドラマのDVDを幾つかレンタルしていってみるかな。
――と、その前に、
「あの……すいま、せん……」
「はい?なんです?メッシュは赤系の方が良かった?」
「いや、メッシュは……」
「ダメ?お兄さんにはピッタシなのに……」
「一応、社会人なので……。すいません」
不満げに唇を尖らせる店員になぜか謝ってしまう。
……仕方ないだろ、気が弱いんだから。
結局、髪の毛は無難に薄い茶髪にすることにした。
再び、鏡を見てみる。
完全に別人だった。面影といえば身長が同じなだけである。
明日、校門で捕まらないか心配だ。
せんせー、校門に知らないひとがーっ。
なにー、不審者かー。
違います。林田です、林田誠二。
林田先生はもっとモッサリと陰気なお方だ。
嘘ならもっとマシな嘘をつけー!
で、でも……。
問答無用じゃーっ!
うわぁーっ…………。
そんな俺の不安を原料に暴走した妄想も杞憂に終わった。
「林田せんせっ!」
――翌朝。
ドンッ、と背を叩かれた。
挨拶ってレベルじゃない。
ものすごく痛かった。
高く、どこか幼げな声とその行動で容疑者は一人に絞られる。
朝っぱらからこんな蛮行に及ぶ生徒は俺のクラス……もとい、この学校でも一人しかいないだろう。
「……真田か。おはよう」
「おはよっ、せんせっ!髪切ったんだ?かっこいいー」
「お世辞はよせよ」