陣陽学園〜Fight School〜 47
すすり泣く無抵抗の鋭利を確認した幸乃は、手錠の鍵を解くなり彼女を明日香に預け、出流に向き直った。
「八霧くんも三船さんも紺色ですが上下関係を公表した以上、もしもの時はこうしたケジメの類が必要になると理解して下さい。」
極道紛いの武術家学生以前に、大人としての声色がそこにあった。
「目上である雑賀さんや若本さんが気を利かせてくれなければ、三船さんの立場は只じゃ済まなかったんです。」
見得を切った以上、出流のみで一通りの収拾をつけねばいけなかったのだ。
ショボンとなる出流に純華がフムフムとうなづく。
「そのへんにしてやれ幸乃…まぁ…あとはKAZUMAを窓から放り出すぐらいで。」
「はい。」
失礼しますも何もなく親への返事は『はい』一言で答えた幸乃はKAZUMAの胸ぐらをひっつかむ。
KAZUMAは突然矛先を向けられチンチン丸出しで青ざめていた。
「え?幸乃さん?」
「アホンダラァ!オドレも誰ヨメにすんのかハッキリせぇやゴルァ?甲斐性ナシがボゲェ!」
可愛らしい男の娘が野太い罵声を吐いたのは気のせいだろう、筋骨隆々いきなりマッチョマンに見えたのも気のせいだろう。
とにかく幸乃の一本背負いでKAZUMAが窓をブチ破ってチンチン丸出しで放り出されたのは事実だった。
「純華さん?いくら無茶な学校でも空飛んだり超人とかないよね?二階から放り出されたけど大丈夫なの?」
出流の真当な問いに教室がざわめき、当の幸乃と純華さえも目を白黒させた。
しかし騒然となる教室で賢治一人が冷静にポツリと漏らす。
「大丈夫だよ、馬鹿だから。」
馬鹿、それだけで解決するつもりか高見沢賢治よ。
茶番劇か殺人事件か、賢児の無茶苦茶な物言いに希望を抱くしかない状況だ。
「おはよー!つーか何があった訳よ?アチコチ痛ぇーんだけど!」
そこへチンチン丸出しのKAZUMAが傾いた首を嵌め直しながら教室に戻ってきた。
賢治は『馬鹿』の一言に要約したが全くの冗談という訳でもない、例えば鉄斎の様に恵まれた体格や鍛え抜かれたタフネスとは別次元の理屈であった。
KAZUMAの様に不良と総称される人種の中でもごく一握り、ロクな防御姿勢や回避行動も取らぬ格闘を続ける中から自然な受け流しを体得した者も出現しうる。
「何となく思い出した、るーくんがヨメ連れて来た辺りだけは覚えてる。」
ヨメ…厳密には違うのだがチンチン丸出しのKAZUMAから無遠慮な口調で、改めて言われてみると出流は耳まで真っ赤になってしまう。
「そう言うKAZUMA君はどうなんだよっ!、自分の嫁っっ!!」
半ギレになりながら恥ずかしさを隠すように話題を変えると、KAZUMAは微妙な表情で頬をポリポリと掻く。
「ああ・・・まぁ・・・真麗愛みたいのがいいよな・・・それか幸乃みたいなの・・・」
縦に青線入る二人を他所にまたもやフラグ乱立させるこの男・・・
『ぶっちゃけありえなーい!』と言いながらも満更で無いツンデレ入る真麗愛。
彼女は兄ラヴなのであるが、指名されて嬉しくない訳は無い。(キャバ嬢的な意味合いで)
あんなやり取りありながらも幸乃指名するのは完全にズレてる気もするのだが、幸乃の方は頬を染め恥じらう乙女になってしまっていた。
「強敵よね・・・幸乃ちゃん、いいオンナだから・・・」
「むぅ・・・うちのロッくんの方がいいオンナよ!」
やり取りを見てそう言うまどかに変な対抗心を燃やすミシェル。
これが、いつも通りの山吹組の日常であった。
その日は何事も無く授業が普通に終わり、各自が今晩のパートナー選びやバイトへ向かったりする放課後に・・・
平穏に時が過ぎ安心しきっていた出流の腕に掴まるもの・・・
鮪漁船ツナ子だった。
因みに彼女は180cm程なので掴まると言うより捕まえるが正しい。
「るーくんをおウチにショータイするのデス!」
大きいくせにニコニコ笑う表情は無邪気そのもの。
人種がどうこうと言うより、そんな所が動物めいて見える子である。
「椿さんは預かっておきますから、いってらっしゃいな」
いつの間にか椿の首輪にリードを付け拘束した百合子が微笑みながら言う。
拘束され泣きそうな椿(ご丁寧に猿轡までされている)を見て踏ん切りがつかない出流に市花が耳元で囁く。
「毎日、お持ち帰りかお泊りはしなさいな・・・そうでないと・・・」
言葉を一旦止めて出流を見る瞳は猛禽の瞳だった。
「刺されるわよ」
そう一言。
そして指で出流の尻の割れ目を突く。
「ひやぁっ?!」
効果てきめん、尻を押さえて飛び上がる出流をツナ子がそのまま引っ張っていく。
こうしてその日は始めてのお泊り(お持ち帰られ)になったのである・・・