陣陽学園〜Fight School〜 1
土、日でも祝日でもないのに、平日にも関わらず、大通りを気だるそうに闊歩する少年がいた。
身長は170cm中盤ぐらいで中肉中背、どこにでもいそうな普通の少年である。
少年の名前は八霧出流(やぎり いずる)といい、16歳の高校生である。
その高校生が、平日にも関わらず、何故大通りを歩いているのかというと、少年は通う高校が初めての所なのである。
つまり、転校生という事だ。
荷降ろしも終え、暇になった為、散歩がてらに街の散策をしているのだ。
「ん〜ま〜……取り敢えず、この辺りの地理もある程度把握出来たかな?さてと、これからどうすっかな?」
平日故か、大通りはそんなに混雑していなかった為、街の見回りも早めに終わってしまい、再びする事が無くなってしまった為、これからどうしようかと、出流は考えた。
すると、出流の腹から「ぐ〜」と音が鳴った。
「む、考えてたらなんか腹減ったな。今何時だ?」
出流は腕時計に目をやると、時計の針は13時近くなっていた。
「うげ、もうとっくに12時回ってんじゃねぇかよ、んじゃあ、ファミレスか喫茶店にでも行くか」
そして、出流は周りを見渡すと、すぐ近くに『喫茶 てぃんくるすたー』と書かれた立て看板が目に止まり、小走りにその喫茶店に赴いた。
「喫茶店か〜……まー、ここでいいっか」
出流はそう決めると、喫茶店の入っていく。
ドアを開けると、鈴の音が鳴り響き、その音に気付いた店員が出流の方を見る。
「いいっすか?」
出流はその若い男におずおずと訊ねた。
「陣陽学園の生徒さんだろ?・・さぼりか?」
カウンター内の金髪の男が怪訝な眼で聞いてきた。
「あ、さぼりって訳じゃないんです。俺、転校生で、明日から出校なんです。」
確かにこんな時間に、自分のような年令の子供が、喫茶店に入るのを不審がられても仕方がなかった。
億劫がらずにマックかファミレスでも捜せばよかったと、出流は少し後悔した。
「いいさ、いいさ。こっちはさぼりだろうが何だろうが関係ないぜ。お客様はお客様さ・・」
若い男はカウンター内の金髪男を遮るかのように、出流に向けて微笑んだ。
「で、でも。高校生が1人でじゃ不味いですよね・・」
出流は何か厭なものを感じ、店を出ようとした。
「おいおい。構わないって言っただろ?」
若い男の腕が出流の肩に回された。
「16、7ってところだよな。」
カウンターから出て来た金髪男が、出流の全身を嘗めるように見捲る。
「じゅ、十六です。」
出流は未成年であることをアピールするがごとくに、声を上げた。
カチャ・・・
入口のドアに鍵を掛ける金属音が、辺りに響いた。
「な!なんなんだ、一体!」
出流は声を荒げた。
「16才の少年が、こんな時間に、こんな所に来ていいのかぁ?」
金髪男が厭らしく片頬を上げた。
「だから、俺は明日から・・くっ!」
若い男の腕が背に回り、出流は羽交い締めにされた。
「だからぁ〜そんな言い訳、俺らに通じる訳ないっしょ〜?」
若い男は出流の耳元に熱い息を吐きかけながら、笑った。
「う、嘘じゃないです!、学校に聞いてくれれば!」
「生憎、俺ら学校ってところが苦手でなぁ〜、得に陣陽学園って所はな・・」
「貴方たちは、陣陽学園に恨みでも持ってるんですか?」
出流は必死で羽交い締めを解こうと身を捩るが、若い男の戒めは強く、それは叶いそうも無かった。