がくにん 8
「………」
「…すみません。あなたが嫌いな訳じゃないんです。が、諦めて下さい。」
「………」
目を潤ませ、俯く双樹に良心が痛んだが、しかしここは断るしかない。
仕事を思い出したのか、それとも一片の優しさからか影介は双樹に声をかける。
「……一緒に帰る約束はしましたからね。送りますよ。」
「…はいっ!」
双樹はフられたがそれでも嬉しいのだろう。笑顔を見せた。
(うっ、こんなに自分の生まれを悔やんだのは初めてだ…)
警戒をしつつも双樹と下駄箱へ向かった。
屋上には誰もいないはずだったが…
「…あははっ僕だったら即オッケイしちゃうけどな♪」
一つの影が肩を震わせる。
そして携帯電話を取り出すと手慣れたように番号を入力し、発信する。
「………あっ、もしもし?はいクラウンBです☆……えぇ、それがなんと告白しちゃいましてね………勿論ですよ、断ってました♪…了〜解!引き続きお仕事を続けます♪」
プッと相手が切るのを待ってから携帯電話をしまう青年。
赤と黒の特徴的な服とフェイスメイクを施したその姿はサーカスのピエロを想像させる。
「さぁ、ショーの始まりだよ☆」
スッと夕陽の中から影は消えた。
実はこの時、影介は隠密の存在に気付いていた。
気配からしてプロでもアマでもない。あらゆる意味で中途半端な気配。
しかし、ああいうタイプは色々と面倒なのだ。下手に動くと何をするか分からない。
更に、まだ情報が不足しているというのもある。はっきり言って得体が知れない。
取っ捕まえて色々尋問したいところだが、今はすぐ近くに双樹がいる為、今の状態ではどうする事も出来ない。
(ちっ、人目を避けるために屋上に来たがそれが裏目になったか。全く面倒な。せめて学校生活ぐらい普通に送らせてくれよな、もー……)
影介は、そう毒を吐かずにはいられなかった。
帰り道。
(まいったなぁ、非常に気まずい……それに、付けられてるし……はぁ、かったりぃ。取り敢えず世間話しで、空気を軽くさせるか)
「あの、逢坂さん、今日は部活はいいのですか?」
取り敢えず、影介は当り障りのない話しを切り出した。
「あ、今日ですか?今日は部活丁度休みなんです」
「そうでしたか、そういえば逢坂さんはチア部でしたよね?何か思い入れでもあるんですか?」
「はい。私は誰か頑張っている人を応援したいんです。私も幼い頃応援された身ですから」
「そう、なんですか。どんな事があったんです?あ、話したくないなら話さなくていいですよ」
「あ、聞きたいですか?じゃあ、お話しますね?」
そして、双樹はその思い出を語り出した。
「あれは、私が幼い頃なんですが、私の家はこう言った言い方は嫌いなんですが、幾つもの会社を持つ名家の家系なんです。名家故なのか、私は其処で、あらゆる勉強や習い事ばかりさせられていたんです。私だって普通に友達と遊びたいし、普通の生活が送りたかった。私はそんな窮屈な生活が嫌になって、家を抜け出してしまったんです」