がくにん 59
「普段はキュートなんだが、楽観的すぎるのは君の弱点でもある。僕も君は鼎さんが受け取ったことを伝えようとしているものだと思ったから、協力したんだがね。まぁ、雛乃さんの役の心情など考えずにただ、その役になる、という才能に関しては右に出る者はいないから仕方ないか」
「もぉ、戒ったら〜〜。ほ、め、す、ぎ!」
「……………そうか、賛辞に聞こえたのか」
「へ?どういうこと?」
「いや、なんでも――――こんにちは」
戒は雛乃を生暖かい目で見つめたが、視界に紅色のスーツを着こなした女性が入り込み、頭を下げる。
その二十五歳前後の美女は学生ならば校則違反になるのではないか、と思われるほど短いミニスカートで辛うじて隠しているヒップを艶めかしくフリフリと揺らして屋上へと続く階段を上ってきた。
戒とのすれ違いざまに「はぁい」と小さく右手を振ると踊場を通過して更に上がっていく。
「………………かぁ〜〜い〜。いまの、だれぇ?」
明らかに自分より女としての色香が勝った美女が屋上への扉を抜け、視界から外れたのを機に雛乃は戒を睨んでいった。
「?……知らないのかい?彼女は我が校の理事長、愛染恵理さんだよ」
「……りじちょう?」
「ああ。朝礼にはあまりお立ちにならないが、入学案内のパンフレットには顔写真と経歴が載っていただろう?」
「……………………あの入学案内系のヤツってさ……教師の一覧のところとかあまり読まないんだよね、私」
「…………彼女が載っていたのは校長と同じ一ページ目だったが?」
「……………………あはは♪」
「読んでいなかったんだね、一ページも……まぁ、君らしいがな―――では、また放課後に」
「うん、バイバーイ!」
教室の異なる雛乃は人にぶつかりかけながら廊下を走り去って行った。
他人にどう見られようが、思われようがただ、その幼さが残る少女を見守り続けたい、と戒はその背中を見つめ、真剣に思った。
(恋愛の情ではない。同じ過ちを二度と繰り返したくないだけだ…………ふんっ、彼女のことを言えないな。僕も十分、幼稚だ)
戒は頬を数度、掻くと天井越しに屋上を見つめた。
「…………瑪瑙……」
「影介様っ、お聞きしたい事があります」
時間が少し戻り、屋上で二人きりになった影介と瑪瑙。
影介は流石に気まずくなり、目の前の幼なじみに呼びかけると瑪瑙はピクッと肩を跳ね上げで口を開いた。
「…………すぅ……なんだ?」
影介も覚悟は決まっている。
一度、深く息を吸って瑪瑙を真っ直ぐ見つめた。
「私は……影介様を、お慕いしておりました。幼き頃から、ずっと!」
「やはり、そう来るか」と影介は首を左右に振り、瑪瑙に自分が双樹と付き合っていることを言い聞かせるため、口を開こうとする。
「あのな、瑪瑙。俺は―――」
「分かっております。逢坂さんとお付き合いなさっているのですよね?」
「………ああ」
「でも、私は影介様をお慕いする、この気持ちに変わりはございません」
「…………瑪瑙?」