がくにん 35
初めて入った影介の部屋。シックな色合いで揃えられた家具が落ち着いた雰囲気を作り出していた。
(影介君の匂いがする……)
双樹はベットに腰掛けながら部屋を見渡し、この空間全てに影介を感じて、心が落ち着くのを感じていた。
「お待たせ。宗像影介お気に入りのアールグレイだよ」
紅茶のティーカップを受け取り、口にする双樹。柔らかな味わいが身に染みて美味しかった。
すると双樹が自分のポンポンと叩き、影介が隣に来るように促す。断る理由もなく、影介は少しだけ間隔を空けて座った。
双樹はその間隔を埋めるように影介に体を寄せる。影介はピクンと反応したが、嫌がる素振りを見せなかった事が双樹を嬉しくさせた。
一方、影介は平静を装ったものの鼓動はまるで全力で走った後の如く脈打っていた。
双樹の重さを感じながら顔を覗き込むと、目が合った。普段ならばすぐ背けてしまうのだが、引き合うようにお互い視線を外す事が出来なかった。
影介はスッと双樹に唇を重ねた。始めは軽く触れるように、次第に深く、長いキスをしてゆく。
「んっ!……ふうぅ、んん〜……ちゅ…ぷ……えい、すけさん…はぁっ…」
影介は双樹の頭を撫でると気持ちよそうに鼻で息を吐く。
唇を話すと双樹は寂しそうに口を尖らす。
影介は微笑むと、双樹の腰を抱き、立ち上がらせるとベッドへと寝かせた。
久田義隆は学園に入学する前まで使っていた自宅の離れにいた。
「ぐ、ききき…宗像影介ぇ!よくも俺の邪魔をっ!殺してやる、殺してやる殺してやるぅぅっ!……そして双樹を、くく…」
丁度その頃、影介と双樹が自分の妄想と同じ様な事をしているとは考えもしなかった。
剣道部の主将らしく畳張りで家具装飾は和甲冑や日本刀、金庫のみと落ち着いた雰囲気の部屋だが今の義隆にはあまりにも似合わない。
癇癪を起こす義隆の両隣には黒服の護衛が二人、そして目の前にはサファリルックの男が座布団に座っていた。室内灯は蝋燭のみのため影が揺らめく。
「………久田さん。申し訳ありませんが契約はここまでという事で…」
サファリルックの男は口調は丁寧なものの、義隆を見る目は侮蔑の色を含んでいた。
その視線に気付く事もなく義隆は怒鳴る。
「ふふ、ふざけるなぁ!お前がまともに仕事をしていたらなぁ、今頃双樹は俺に抱かれてたんだっ!くそぉっ……テイマーJ!報酬は倍にする。宗像影介を殺せ!惨たらしく!目も当てられないようにっ!」
「…ですから、ミーは手を引くと言っているでしょう?報酬額が何倍になろうとあの『宗像』と殺り合う気はないですよ…」
「臆したのかっ」
「こっちも商売です。割に合わない仕事をする気は……」
ドサッッ!!
テイマーJと呼ばれる男が義隆という低能な依頼主との契約を破棄しようと説得した時、それは前触れもなく起こった。