PiPi's World 投稿小説

がくにん
官能リレー小説 - 学園物

の最初へ
 27
 29
の最後へ

がくにん 29


だた、触れるだけのキスだった。

色気のあるキスとは程遠い、ぎこちないキスだった。

そして影介は、ゆっくりと唇を離した。

「いきなりすまない。今はこれが俺の精一杯」

「……謝らないで下さい。私は凄く嬉しいんです。好きな人がしてくれたキスなんですから……」

「そうか。以前にも言ったことあると思うけど、態度で示したように君の事は嫌いじゃない。寧ろ、好意があると言ってもいい。だが、俺は裏稼業の人間。人を殺めた事だってある。俺は君にそういう事を知って欲しくない。君は平穏に生きて欲しいんだ」



そう。これこそが影介の葛藤の正体。
自分を深く知られる事は、つまり影介が抱えている忍者としての暗部を知られる事と同義である。

まだ若いながら抜群の腕前と実績を持つ影介。当然ながら汚れ仕事もこなさねばならず、影介も過去に一度だけ来た暗殺依頼を遂行した。
ターゲットは医者。自分好みの若く健康的な女性を何人も拉致、気が済むまで性的暴行を繰り返した後は生きたまま刃物で体内から臓器を取り出して密輸。そこから莫大な利益を手にする、という狂人と言う他無い男だった。

影介はその医者が開いている病院の執務室内で、ターゲットが密輸用の書類を準備していた際に侵入、一刀の下に切り伏せて素早く任務を遂行した。
しかし、である。物音を聞き付けたのか何者かが執務室に来て悲鳴を挙げた。影介は物陰から悲鳴の主を見て愕然とする。


小さな女の子だった。点滴のバックが着いた車椅子に乗った女の子。継いでもう一人の女性。言うまでもなく妻である。
そう。この男には家族がいたのだ。

後に調べて判明したのだが、この医者が殺人と密輸を繰り返していたのは娘のためだった。
先天的な臓器の病に冒されていた娘に適合する臓器を手に入れる為に密輸犯罪に手を染めていたのだ。
狂気の行動は娘を救いたい一心で殺人を繰り返すという矛盾に耐えられなくなった精神が一時的に崩壊する事で最後の壁を守っていたのである。

影介は悩んだ。確かに殺人とは紛れも無い罪である。だが、ただ純粋に娘を救いたかったあの医者は完全な悪人なのだろうか?
悪人を断罪する、と大義名分を振りかざして人を殺めた自分は正義なのか?
この答えの無い問題で影介は酷く思い悩んだ。
それ以来影介は暗殺を引き受ける事が出来なくなってしまった。重役になれる実力を持ちながら護衛等の、言うなれば簡単な任務をこなしているのはその背景も関係している。
少々話がズレたが、影介はこの様な闇を抱えている。そして今自分の腕の中にいる心優しい少女……双樹には知って欲しくはなかった。
他の誰かに嫌われたって構わない。本来忍者とは全てに耐え忍ぶ宿命だからだ。

それでも……もし仮に自分の闇を知った双樹が自分から離れてしまったら……。きっと自分は耐えられない。

SNSでこの小説を紹介

学園物の他のリレー小説

こちらから小説を探す