がくにん 23
そして、影介は急いでその文を紐解いて行く。
そう時間がかからずして、なんとか授業になる前に解読を終える事が出来た。
(えっと、何々?
『後学の為に瑪瑙を派遣した。少々、世間に疎い所があるから彼女をサポートして上げて欲しい。以上』
……おいおいマジかよ、ちょっとした任務を抱えているこの忙しい時に……)
因みに、ちょっとした任務とは、逢坂双樹ストーカー事件の事だ。
(しかし、考えようによっては楽になるかもしれんな
最近会ってなかった分、実力は未知数だが、真面目な子だから修行を疎かにしてない筈だ。
多分結構腕は上げているだろう。
事態が複雑になった場合、瑪瑙に協力を仰げばいいし、何より貴重な戦力になる。
取り敢えず、今は静観して、隙を見て瑪瑙と接触すればいいか。
よし、今後の予定は決まったな)
そう影介は意気込んだが、次の瑪瑙の言葉によって、影介の立てた計画は一瞬にして頓挫する事になった。
「あ、影介様、お久し振りで御座います」
……あれ?今俺の名前を呼ばなかったか?しかも様付けで……というか、その一言で教室内が氷結地獄(コキュートス)と化したぞ。
当の本人は、知ってか知らずか、更に火に油どころか、ダイナマイトの導火線に火を付けてくれた。
「影介様にお慕いして、幾星霜。影介様と同じ学び舎で勉学に励める事を、一日千秋の思いで心待ちにしておりました。まだまだ至らぬ部分も多く、影介様の迷惑を掛けてしまう虞もありますが、これから宜しくお願い致します」
THE,WORLD!?今のこの場の状況を影介はそんな風に思った
(ちょっと待て、大衆が多い中でそれはないだろう……
悲しいかな、態とじゃない分余計に始末が終えない。天然って怖いね。
っていうか、今はそんな事を考えている場合ではない。
今、この状況をどう打破するかだ。
でないと、この先俺の立場がまずい事になるぞ)
しかし、神様はまだ影介を見捨てなかったらしい。
丁度よく、一限目の授業の担当の先生が来た為、どうにかこの場は納まった。
だが、まぁ問題を先延ばしにに過ぎないが……
今、空気が非常に重苦しい。
時限爆弾の近くにいる様な心境だ。その場合タイムリミットは授業の終わりの時に発動するのだろうね。
なんというべきか、授業が長引いてくれないかな?と本気でそう思う。
とは言うものの、このままの状態も非常に嫌だ。心臓に悪過ぎる。
敵意ある視線が、影介を射抜き、そして、何より隣の席の方(双樹)からの疑惑の視線がもの凄く痛い。
針の筵ってこの事を言うのだろうね。
普段だったら、授業を簡単に抜け出す事は容易いのだが、如何せん影介は今や注目の的(悪い意味で)である。