がくにん 20
「はぁ…ありがとう」
「宗像君、時間を取らせて悪かったね。行ってらっしゃい、気をつけてね…」
「ええ、行ってきます…」
影介は寮を出ると軽く足首をほぐし、走り出す。それはランニングと言うよりは短距離走の速さだが、影介には丁度良い。
寮から五キロ離れた市民公園への往復を三十分程度でこなす。
そして寮へ戻ったら自室へ戻り、朝食を取る。
実家から送られた米を茶碗に盛り、インスタントの味噌汁と半熟の目玉焼きをテーブルへと置き、座った。
テレビの朝のニュースを見ながら黙々と箸を動かす。
「ごちそうさん。ふむ、まぁまぁだったな」
自分の作った料理を自己評価しつつ、食べ終わって空いた食器を片した。
朝食も終え、影介は制服に着替える。
すると、不意に空いている窓から鳩が飛び込んで来た。
その鳩の足には和紙が括り付けてあった。
「ん?伝書鳩?実家からか?つってもな、今伝書を見てもな……学校だし……まぁ、学校に行ってから確認しても遅くはないか……」
しかし、影介は今伝書を見なかったのを、後で後悔する破目になるのだった。
「さて、そろそろ行くかな」
影介は、普段学校で生活するダサいスタイルモードに変身して、寮を出た。
普段ならこのまま、学校へ直行するところだが、今影介は逢坂双樹の護衛の任を受けている為、そのまますぐに学校へは行かず、双樹が寮を出てくるのを待つ。
双樹が寮を出る時間が分からなかった為、何時もより30分も早く寮を出た。
影介が10分程待っていると、影介のお目当ての人物、双樹が出てきた。
影介は双樹の側には行かず、2、30メートルぐらい離れて、草葉の陰から見守るかのように双樹の背後に張り付いた。
別段、双樹の側で護衛してもいいのだが、あくまで影介は書いて字の如く忍びの者なのだ。
それに、影介と双樹とでは、学校内での評価が雲泥の差であり、逢坂双樹と聞いて学校内に知らない者はいないが、影介の方は、宗像影介と聞いて、精々珍しい苗字だな?ぐらいにしか思われない。
ましてや、クラス外や他学年に聞かれれば、宗像って誰?と、言われるのは必至であろう。
かなりの知名度に開きが有る状態で、双樹と一緒に登校なぞすれば、全校生徒がどんな行動に出るかは想像に難くない。
だから、影介は忍びの者に徹しているのだ。
とまぁ、特に事件も起こらず、学校に着いた。
双樹に注がれる好意を持った多数の視線はあったが、正面きって双樹に話し掛ける兵はいないようだ。
そりゃそうだろう。人気のある双樹に話し掛けでもすれば大顰蹙を受けるのは目に見えている。
だから、それぞれで牽制し合っているのだ。
正直、面倒な手間が掛からず有難い。
ずっとそう牽制し合っててくれと切に願う。