がくにん 16
すると、その扉から見慣れない顔の男が現れた。
その男は、さっきまで影介が双樹を監視していたポイントまでやって来て、少し周りをキョロキョロさせた後、双眼鏡取り出し覗き込んだ。
「ん〜?ものすっごい怪しいな……さて、とっ捕まえて尋問するか、敢えて泳がせるか……」
前者を行えば、何の目的かを聞き出せる事は出来るが、これが、あのストーカー野郎の仲間だった場合、捕まえ、帰って来ないこと(情報が来ない事)を不審に思って、奴等の姦計に狂いが生じる事は間違いない。
あの妙に回りくどい遣り口を考えると、結構頭は切れるのだろう。
故に、どういう風な動きを見せるか、皆目検討もつかない。
慎重的に物事を進めてくれれば双樹への被害はしばらくはないだろうが、強行的な動きを見せた場合、双樹へ大きな被害を受けるのは間違いないし、何度も衝突を覚悟しなければならない。
他にも、違う動きがあるのを考えないといけないが、今は目の前に起きてる事をどうするかだ。
さて、どうしようか……
「……ん〜、でも何もしないんじゃ話しが進まんから取っ捕まえるか……いざとなったら同郷に助っ人頼むか……」
思い立ったが吉日とばかりに、覗き魔に音も無く背後から近付き首筋に手刀を食らわせた。
油断しきっていた分、意識を刈り取るのは簡単だった。
「はぁ、さてこれからだな……」
影介はポケットから携帯を取り出し、理事長に報告する為、連絡をした。
数回のコールの後理事長が電話に出た。
「はい、愛染です」
「もしもし、宗像です。ちょっと報告があるんで連絡しました」
「そう。それで、何があったの?」
「取り敢えず掻い摘んで説明します。護衛対象の身辺警護を行っていたところ、男子寮の屋上にて覗き魔を発見。直ちに覗きを阻止する。現在気絶中。と、こんなところですね。それで、どうします?このまま尋問しますか?」
「そうね。取り敢えずこの件は貴方に一任しているから、その事については貴方の独断で動いて構わないわ」
「分かりました。取り敢えず尋問してみますんで、ではまた」
そう言って、影介は電話を切った。
「さーて、取り敢えず今のうちにふんじばって置くか……」
影介は懐から鋼糸を取り出し、気絶している覗き魔を、手際よく縛りつけた。
そして、気絶するその覗き魔の顔を確認すると、その人物は影介と同じクラスの高城達也(たかぎたつや)だった。
それでも、全く話した事のない人物だった為、その認識に少し時間を要した。