がくにん 14
そう、例え彼女に嫌われようと彼女を護る事に揺らぎはない。
そう決意を固めた時、双樹がやや強い口調で話し掛けてきた。
「……あの、影介君、私はそんな事で影介君との付き合いを変えるつまりはありません」
「いや、しかし……」
「私は、寧ろ影介君に感謝しています。私が招いた事なのに、影介君には関係のない事なのに、それを影介君が護ってくれている。嫌うどころか、私は貴方の事を更に好きになりました。この想いは本物だと自身を持って言えます」
「君は…」
嬉しかった。元々、嫌われるのを覚悟していた分、彼女の発言は心にしみた。
双樹は影介の唇に手を当てると言う。
「…双樹です。」
「は?」
「双樹って呼んで下さい。じゃないと怒りますよ?」
「わ、分かったよ。双樹…」
「はい♪」
にっこりと笑う双樹が影介には眩しかった。この笑顔を守るためにならば戦えると高校生にもなって本気で思ったりもした。
「では、影介君。また明日…」
「えっ…と?」
「あっ、それとも私の部屋に来ますか?影介君ならいいですよ?」
そこは寮の前だった。
目の前でいたずらっぽく笑う双樹に恥ずかしくなる影介。
葵坂学園の寮は男女別であるが、道路を挟んで向かい合っている。横断歩道を渡ったとしても距離にして百メートルも離れてはいないだろう。
「じゃ、じゃあまた明日。双樹…」
「はい。また明日、影介さん♪」
手を振り遠ざかる双樹を見送ると一旦、影介は自室へと帰った。
寮の各部屋は六畳程の個室である。また、各家電が最初から設置されており、快適な暮らしができる。
色々な事が重なり、多少疲れたようにガチャリとドアを開ける。
「ただいまー…」
「おう、おかえりー」
一人言のように呟いたあいさつに返事があった。
顔を上げるとそこには黒い少しゴスロリが入ったような服を着た同年代の少女が寝転がりながら漫画を広げていた。
「……」
少し目頭を押さえため息をつく。
「おう、影介。社長しらね?」
少女が挨拶のように軽く片手を上げた。
少しなにかを考えたがとりあえず冷蔵庫から水を取り出し、コップに注ぎ仰いだ。
「お、オレにも一杯くれ」
少女の言葉とほぼ同時に顔面にコップが激突した。
「色々ツッコミたい所ではあるが、とりあえずなんで人の部屋に勝手に上がり込んでいるんだ。社長秘書…」
「っつつ…ん?あの馬鹿社長が例のごとく勝手に失踪しやがったからもしかしたらお前んとこ来てんじゃねーかなーって思って」
顔面に当たったコップに水を注ぎながら答える。