香港国際学園〜第二部〜二章 84
レイナを抱えた大阿門D玄人とて、この程度の雪崩から身を守る事は容易い。
…Yes…あのラングレーの使い走り…少しは知恵を使った様だな…
風水系の能力『流動』で突破するにも精神力消耗で逃げ足が鈍り、体術を駆使して回避行動を取るにしても結果的に同様だ。
玄人の選択は無駄の少ない後者を選ぶ。
今回、人質救出を優先した彼の武装は先の拳銃に加えて短刀のみ…そして防具も薄い。
しかし仮に追い付かれたとしても、それだけで十分排除出来るという自負があった。
…万一敗北したとしても、最悪の場合(玄人個人にとっては文字通り最悪だろうが)、陣地守備で残っている天野ヒナにレイナの回収を任せる事でE組全体としての勝利は揺るがない…。
「Yes!どうした?合衆国の能力者は…この程度のスピードにも追い付けんのか?」
…無数の氷塊、時には岩石をも片手で打ち払い、八艘跳びよろしく雪崩を避ける玄人(と目を回すレイナ)の背後、既にルーファスと花鈴お嬢様の姿は見えなかった…。
…そう…『背後』には…
「No!正面…だ…と!?」
「万能無敵の超一流能力者は…手負いの能力者に…アッサリ追い付かれるのか?」
山間に吹き荒ぶ吹雪の中でも鋭く響き渡る…先程まで虫の息だった筈の、東雲花鈴の戯けたアニメ口調に大阿門D玄人が驚愕する。
花鈴の『Cool Down』は体温低下と引き替えに各種氷結攻撃やスケーティングを可能とする。
しかし当然、こうして寒冷地の条件付けを行えば効果倍増…そして氷結属性から雪崩と吹雪で一時的にエネルギーを貰い、応急の回復まで可能なのだ。
あくまで応急手当…それでも試合序盤の消耗から花鈴を立ち直らせるには十分。
『中世騎士の馬上槍試合か?このチキンレース制するのはどっちだァアアアアッ!』
音無太郎の絶叫アナウンス通り…否応がなし双方退くには退けぬ…否!正に望む所と睨み合う!
「Cランク前後…人の殻さえ破れぬ凡俗共にしてはよくやる!しかぁし片手で十分!小細工もろともッ…!Yes!」
大阿門D玄人は戦国武将よろしく傾いた口上を響かせつつ、背中側に差した短刀を逆手握りの居合…霞斬りの姿勢に構え刃に念を注ぐ。
「Yesッ!」
「さっきからイエスイエスって…それ何てプリキ○アだ?」
相対す東雲花鈴はあくまでシニカルなアニメ口調でせせら笑う。
「私の用意した一曲…魔人ドノのお耳に召すかな…?」
そして指揮棒でも振るうかの様に優雅な仕草…軽くカメラを意識しつつ…粉雪に舞うツインテールを掻き上げ、ヘッドギア内の耳栓を作動させた。
「やれぃッ!ルーファスッ!!」