香港国際学園〜第二部〜二章 83
後に『私闘スタジアムに幻影は疾る』と呼ばれる一幕であった。
(ただし大富豪パワーを発揮した花鈴お嬢様の自演デマゴーグという心無い説もあり)
その時、ルーファスの耳元、インカムに武蔵から『降ろし方よぉーしッ!』と言う景気のよい通信が入る。
山頂の武蔵は威勢良く超硬度木刀を振りかざしているだろうが。
そんな事よりも
クラスメートであり
主であり
幼い(外見の)少女であり
言葉で表す事すら無粋と想いを馳せる
東雲花鈴にここまでさせた以上
もうルーファスはあとに退けないのだ
花鈴に報いる手段は只一つ
「・・・勝つ、例え相手が魔人であろうとも」
「「副業」で得た大阿門D玄人の情報はその深みを増していくごとに人間離れしていった。
曰く、個人で幾つもの能力者武装組織を壊滅させた男
曰く、数々の能力を駆使し、その姿はまるで仙人か悪魔のようであると
曰く、「教会」の幹部と面識があるということ
今にも震えそうな弱い自分を叩きのめす。
自分とて何もしてこなかったわけではない、「音」を自らの刃へと昇華させた。
銃器の扱いを、格闘術も会得した。
「今踏ん張らなかったら・・・どこで踏ん張るんだよ・・!」
武蔵の木刀が雪を砕いたのだろう。上のほうで大きな破砕音が鳴り響いた。
スタジアム大型モニターでは(実面積よりも広く感じる)空間歪曲の都合、観客席から目視し辛い他の戦局が映画ダイジェストの様に移し出されていた。
小次郎が髷もほつれたザンバラ髪を振り乱し泥雪まみれで脇差逆手、平原花丸と壮絶な組み討ちを演じていた。
甲太郎の回し蹴りに利き腕をヘシ折られ、泣き叫びながら戦斧を取り落とした葵。
ギブアップするか?の問いに、スパッツの隠しポウチからバタフライナイフを抜くなりヤケクソ気味で突っ掛かる。
重ねてこの試合、既にF組の勝利は有り得ない。
…しかし…
観客席の誰もが魅いられていた。
この時空の袂…私闘スタジアムと呼ばれる模擬戦闘空間での土壇場、最大の見せ場たる決死の白兵戦と壮絶なチェイス。
『…アナウンス席の気象センサーが何か感知しております…あぁあああっとぅ?アレはナンだァアアアア!』
山頂に沸き起こる雪煙、加速能力と相まってさながら暴走した作業重機…武蔵の二刀流が猛威を奮っていた。
「No!雪崩だとッ?」
直接、玄人達を襲う雪崩こそ災害と呼ぶには程遠い…だが視界を奪う粉雪に紛れ、斜面を滑り加速の付いた氷塊…。