香港国際学園〜第二部〜二章 81
かと言って手数を減らす訳にも行かず、葵は徐々に追い詰められてゆく。
葵の見立て、島本甲太郎の格闘技術自体は精々が中の上。
しかしノンフェイス能力の真骨頂は単なる感情麻痺に非ず、容赦無き肉体破壊、そして冷静かつ適切な危機回避を可能とするのだ。
…あかん…キャプテンの指示は花鈴お嬢とルー君の時間稼ぎやけど…ソレどころやないてぇ〜…おかぁ〜ん…助けてぇ〜?…
葵の脳内で、喧嘩祭だ学園バトルなロマンだとかが萎縮してゆく最中、ノーマークの険しい山岳地帯を疾走する、二つ重なった人影があった…。
「ルーファスっ!落ちるなよっ!」
「はひぃいっ?」
捕虜追跡のF組選手二名…氷結能力者の東雲花鈴お嬢様と、その執事ルーファス・ラングレーであった。
「跳ぶぞっ!」
「ひぃやあっ?」
クロカン、と呼ぶにはあまりにもゾンザイな滑走。
だが重力を味方に付け、能力により凍りついた斜面を滑走する二人は確実に玄人との距離を縮めていった。
「・・・む、このままゴール、と言うわけにも行かないか」
「どうするの、デルリン?」
抱えられた状態のレイナが問いかける、その問いに玄人の口の端が半月に歪む。
「無論逃げ切り、勝利を君にィィイィイ!」
その瞬間爆走する玄人がさらに加速、もはや加速能力持ちであるかのようなその速度で花鈴とルーファスとの差が再び開いていく。
「なんだアイツは、常識外れも良いところだ!」
「このままじゃ追いつけない・・・ですね」
ルーファスが滑りつつも思案を巡らす、この状況を打破する為の一手を。
「お嬢様、ちょっと後ろがうるさくなりますので耳を塞いでください。」
それと同時に花鈴の腰に巻きつくような感触、それはルーファスが使用しているサックスのネックバンドだった。きつく結ばれたそれはルーファスと花鈴が離れないように固定していた。
何やら策を立てたらしいルーファス。
その数十m先を遁走する大阿門D玄人が『失礼』とレイナを俵担ぎ…ホルスターから抜いた拳銃を脇下から背後に構えた。
ワルサーP38大阿門カスタム…原形は本来カスタム素材に向かぬ、汎用性こそが美徳とされる軍用銃。
故に操作系と破損しやすい小部品を新規で削り出し、調整した以外はノーマル、だからこそ射手は技術を…。
…と平時ならば口上を加えるだろう玄人が三発の速射。
たんたん!たん!
「ちぃい?」
花鈴とて手練れ、反射的に氷の盾を形成。