PiPi's World 投稿小説

香港国際学園〜第二部〜二章
官能リレー小説 - 学園物

の最初へ
 57
 59
の最後へ

香港国際学園〜第二部〜二章 59

普段の刀機からは想像も出来ないような不安に満ちたまなざしが冷え切ったコーヒーの水面に写る。
理人はふと窓の外を見た。既に日は暮れ、空は緋色に染まっている。人の世の時間と神の世の時間、その夢と現の境界がせめぎあい、大禍時はただ緩やかに過ぎていく。

「何も……起こらないとよいのだがな……」

ほとんど祈りに近い呟きを口にする刀機、しかしこの祈りは届かないと半ば予感じみたものを感じていた。
暴力神父ことハーヴェイとの殺し愛……もとい殺し合…じゃなかった。『練習』を終えて『特製トマトジュース的鮮血パック』にストローを刺して休憩している理不尽貴族、ヴィンセントは憂鬱そうな瞳を練習場に泳がせている。
最近は新しい主、楠凛のお陰で和らいだものの相も変わらずこの身を蝕む退屈という名の毒、尽きせぬ渇きと飢えがヴィンセントの身体を巡る。ふと完全な吸血鬼になっていたら長い付き合いのこれらに悩まされる事など無かったのではないか、と思う。
これまでも幾度と無く浮かんだ、そんな疑問が脳裏を駆けていく。


(だがこの苦痛を取り去ったら只の肉の塊に成り下がるだけだな…)

これまでもそんな結論に至り、いつものように通り過ぎていく、そんなたいした事の無いこと。
これは戒めであり罰、甦る為にヒトを棄て、結果愛した者すらも死に至らせてしまった、その業の報い。
彼が不完全であるが故に得た『血液を取り込み、相手の能力を得る能力』いかにも吸血鬼らしい能力。しかし、それすらも他人の借り物で自身はスペックにおいて他の吸血鬼に劣る、欠陥品だった。


(結局、奪う事しか出来んか、いかにヒトの命を奪い、真祖の秘術で吸血鬼として転生したとはいえ、力はそこらの凡百の吸血鬼と変わらん、正に張子の虎だな…)

くっくと自虐的な笑みを浮かべ残った血液を吸い尽くす。その時、風に乗って桃の香りがヴィンセントの元に届く。

「!!!」


今まで体を包んでいた諸々の苦痛が吹き飛び、胸を締め付けるような苦しさがヴィンセントをその場に縫い付ける。ヴィンセントはこの匂いを知っていた、忘れる筈が無かった。


「何故だ…アリス……」

少なくともこの時、ヴィンセントは『ニンゲン』に戻っていただろう。時が止まったように見える世界の中、驚愕で見開かれたその瞳の見つめる先には一人の少女の姿があった。
吸血鬼としての初めての糧でかつての想い人であった少女は穏やかな微笑を湛えたままヴィンセントを見つめている。

SNSでこの小説を紹介

学園物の他のリレー小説

こちらから小説を探す