香港国際学園〜第二部〜二章 56
そして…
ルーファスの耳元に吐息を吹き掛ける。
思わず背筋に電流が流れるような感触に、ルーファスは身を震わす。
ひたすらに甘く…そしてひどく官能的な吐息…
だが、それは虫をおびき寄せる食虫植物の出す甘さに感じた。
『喰われるっ!!』…頭の中で警鐘がけたたましく鳴るが、身体は痺れたように動かなく、縮まり込んでいた逸物は警鐘を無視するように力強く勃起した。
死の恐怖を感じながらも、その恐怖が余りにも甘美に感じる。
恐怖と恍惚感の入り混じった表情のルーファスの目からは自然と涙が溢れる。
逃げたくても、動く事すらできない…いや、息すら止まりそうな重苦しさ…その重苦しさがルーファスを縛り付けているように感じていた。
目の前の美女は、そんなルーファスを見てクスクス笑う。
そして、そっとルーファスの頬に掌を当て顔を近づけた。
「心配しなくても…食べたりしないよ…」
ルーファスの心の内を見透かしたような言葉を投げ掛け、彼女はルーファスの唇を奪った。
ルーファスの脳天を突き抜けるような衝撃…舌を絡めてくる接吻は、ルーファスにとっては『喰われる』と言う表現にピッタリなぐらい衝撃的なものだった。
下半身の力が抜け、膝から崩れ落ちる。
妖艶な唇を舌で舐める彼女の仕草が、ルーファスの魂を咀嚼し腹におさめたような感覚に襲われる。
そしてパンツの中の不快感…接吻だけで精を放った逸物が凌辱されたようで、嘔吐感が駆け上がってくる。
彼の両手から二挺のガバメントが零れ落ちる。
そしてひざまづいたまま、汝どうのと過ちを犯した敬謙なクリスチャンが許しを請う様に掌を組み、我を失ったルーファスが必死に祈りを奉げた。
…神様…神様…助けて下さい、僕はルーファス・ラングレーです…
「それは違うよ…ルーファス・ラングレーくん?」
天から降り注ぐ金鈴が如き囁き…ルーファスの見上げた先…つい先ほどまで、毒婦にして悪女たる妖艶な微笑みを湛えていた誠二はいない。
人払いの結界の中、道場の天井照明に照らし下ろされ、その両の腕を広げた誠二の姿は正に聖母…溝泥に塗れ、人知れず裏稼業にまで身を窶した、咎人たるこの少年さえも包み込むが如し暖かく健やかな輝き…。
「男の子の宗教…神様とか仏様じゃない…男の子なら『俺様』だろう?」