香港国際学園〜第二部〜二章 55
「桜川…くん?」
「んー…よく間違えられる…と思う。」
彼女はハリウッド映画の様な…銃の機種によっては危険極まりないガンスピンに挑戦していたが…何度やっても上手くゆかず、不機嫌そうに丸っこい頬を膨らませた後、ルーファスにそいつを返した。
「誰だ?」
受け取るや否や、コック&ロックのセフティを解除、格闘家のガン殺しの間合いから距離を取り、二挺の45口径を『桜川ひかるにそっくりの不振な女』に照準。
「教えない。」
そいつは小馬鹿にした薄ら笑いで、舌を翻して見せる…どう贔屓目に見ても女子高生ではない彼女。
香港国際学園高等部の制服の、はちきれんばかりの胸元に揺れるネームプレートには『鈴木』とある。
このありきたりの姓はどうせ偽名だろう、いっそ抗日韓流スラングで『このナカムラめ!』とでも罵ってみようか?
「OBに対して何だその目は?マザーとでもファ○クしてろバーカ?」
「生憎、孤児院育ちなんで…ファ○クするマザーもファーザーもおりません。」
緊迫したアメリカン・ジョークの応酬…正直な話、ルーファスはこのイカれたヴィッチに畏怖していた。
フォーティファイブの銃口にビビらない奴、物理攻撃耐性を持つ生徒はこの学園にゴマンといる。
…違う…陳腐なTVゲームじみた『○○こうげきにつよい』などと言うレベルではない…たとえサックスが十全でも。
『コイツには、何をしても勝てない。』
パンツの中でルーファス自身が絶望的に縮み上がり、宗派の都合で割礼していないソイツはまるで、インゲン豆…それこそ失禁を堪えただけでも、理性と勇気の勝利と賞賛に値する。
「恥じる事はないさ…僕を目の前にして『縮こまるだけのイチモツをブラ下げている』だけでも…立派なモンだ?うん!」
「あ…貴女は…?」
「怖がらなくてもいい、こう見えて…僕は兄ちゃんより話の通じる奴なんだ…。」
ルーファスが知る筈もあるまい、この『女の姿をした別の何か』が、かつて五年前の騒動の際、行方不明になった最強格の片割れ…密入国ならぬ密入校した鈴木誠二だなどと…。
そして誠二を知る者ならば、口を揃えてこう言うであろう。
『奴を信用するな。』
…と。
「コレを使いなよ、スタジアムで君を『ガンダム並』にしてくれる、熊野特製の必殺ウェポンだ。」
誠二は…45口径のタマ、ルーファスの拳銃と適合するそいつを、彼の胸ポケットに滑り込ませた。