ナースcalling! 23
尚も続く、下腹部の違和感は、熱となり身体中に湧き上がっていく。
僅かに湿り気を帯び始めた、女の部分。そこを無性に貪りたい衝動に、ミチルは駆られていた。
黒いタイトスカートへ伸びる、白く長い指。それは太股の間を潜り、スカートを押し上げんと蠢いていく。
しかしその指は、スカートを押さえ付けるように思い切りその生地を掴んだ。
それは、湧き上がる感情すらも強引に押し殺すように。
ミチルは深く溜め息を吐くと、眼鏡を手に取り天井に視線を泳がせた。
「どうかしてるわね、私……」
自分に言い聞かせるように、ミチルは1人呟いた。
眼鏡を掛け直したミチルの表情には、いつも通りとは言えないまでも、落ち着きの色が戻っている。
下腹部の違和感が治まっていくのを感じ取りながら、ミチルは机上のカルテを手にする。
その瞳から発せられるのは、患者の健康の為、医療に従事する者の真剣な眼差し。
静寂の支配した部屋にはペンの走る乾いた音、そして無機質なキーボードのタイプ音だけが、小さく鳴り響いていた。
コンコンコン!――。
その静寂を打ち破る不意に響く忙しげなノックの音。
「ど……どうぞ……」
不意を突かれながらも冷静さを保とうとするミチル。
そしてドアが開き、その向こうから顔を出したのは……。
「せんせぇ……」
顔をクチャクチャにした坂本亮太であった。
「ど……どうしたの?」
その亮太の今にも泣き出しそう顔を訝しむミチル。
「どうしたも……こうしたも……ないがじゃあ。せんせぇが泣きそうな顔で歩いとったもんじから……わしゃもぅ心配で心配で」
泣きそう顔?この私が!?
いくら何でもあんな事で泣きそうになる訳がない。
不意におかしさが込みあげてくるミチル。
しかし同時に……。
亮太さんはいつから部屋の外にいたの!?
えもいわれぬ不安も込み上げてくる。
「どおしたんかのぉ……ってずぅぅと考えちょたがのぉ、どぉにも心配でなぁ……飛んで来たぜよ」
壮大なストーリーを語る表情で自分の来た訳を話す亮太。
どうやら今、来たところのようだ。
ひと安心のミチル。
そんなミチルに向かって亮太は……。
両手を大きく広げると……。
「泣きたい時はわしの胸で泣けばええっ!」
どうにもミチルが泣きたいと思い込んでいるようだ。
そんな亮太の大真面目な顔を見ていると。
ついついミチルも普段は滅多に見せないイタズラ心も芽生えくる。
そして……。
優しげな笑みを浮かべながら。
「まっぴらごめんよ!」
優しげな表情でありながらもケンのホロロなミチルの言葉。
「ありゃ?」
そのミチルを見て合点がいかないと感じの亮太……そのギョロっとした目をパチパチしばたいている。
「泣きたいと…違ったんかいのぉ?」
ミチルのそのサバサバした感じに、そのキョトンとした顔の亮太。
「おあいにく様……考え事をしていただけ」
ミチルは……。
『考え事の邪魔よ』とばかりにわざとツンと澄まして見せる。
「そいたらぁ……ワシの早合点かいな」
あんぐりと口を開けかねない表情の亮太。
「でも……心配してくれてありがとう」
その表情につられるように、不意に表情を弛ませるミチル。
「あははっ……ワシはとんだお邪魔だったのぉ」