ナースcalling! 2
「うわっ、秋吉ぃー!」
先輩社員の叫びは、ヒロトの上に折り重なる鉄骨の金属音に掻き消された。
工場内に響く轟音がやがて消え去る時、ヒロトの意識も遠退いていった。
「ハハ……いてぇ、な」
恐怖、痛み、不安……それら全てと共に、のしかかる鉄骨の下で。
*
ヒロトは目を覚ました。
最初に視界に入ったのは、シボ加工された白い天井だった。
次に視界に入った天吊りのレールと白いカーテンから、病院にいるのだと直感した。
途端に、安堵の念がヒロトの身体中を巡った。とりあえずは生きているのだ。
身体は石になったように重く感じるが、生きている事は現実に実感出来た。
しかし、すぐさまヒロトの頭に不安が過ぎる。
足はちゃんとあるのか?手は?果たして五体満足のままなのか?
あれだけの鉄骨の下敷きになって、ただで済む訳がない。
覚悟はせねばならないと、ヒロトが深く溜め息をついた、その時。
「あっ、目が覚めたんですね! よかったぁ……」
聞き慣れない女の声と共に、ナース服姿の女性がヒロトの視界に飛び込んで来た。
まさかコスプレという事はないだろうから、恐らくは看護師だとヒロトは判断した。
そのナース服は、白衣高血圧を防ぐ為にか、微妙にピンクがかって見える。
女性的なラインを強調する、タイトなツーピースで、スカートの長さは少し膝上くらい。
スカートから覗く、白いストッキングに包まれた美しい脚が悩ましい。
衛生上の問題からか、今では見かけなくなったナースキャップだが、この病院では未だ残っているようだ。
美しい黒髪のショートカットにきっちり乗せられたナースキャップは、清潔感さえ漂わせる。
何より、この看護師の愛らしく整った顔立ちと、その慈愛に満ちた笑顔に、ヒロトは釘付けになった。
しかし、ヒロトの煩悩はすぐに吹き飛んだ。
自らの負傷の程度、五体満足で居られるのかをまず知りたかった。
「看護婦さん、俺の身体は……どうなった?」
「秋吉さん……」
単刀直入に尋ねるヒロトに対し、看護師は声のトーンを下げ、少し俯いた。
暫し訪れる沈黙に、ヒロトは唇を噛み締め、諦めたように瞳を閉じた。
脚か腕か、はたまた両方か……告げられるであろう残酷な答えを、ヒロトは待った。
「ラッキーでしたね。綺麗に治りますよ、脚も腕も」
「そうですか……って、えぇっ?!」
予想もし得ない答えに、ヒロトは思わず身体を起こした。
左腕に刺された点滴、ギブスに覆われた右腕、左脚。
重傷に変わりはないが、予想より遥かに好ましい状態だった。
「漫画みたいに綺麗にポッキリいってたらしいですよ。打ち所も良かったみたいですね」
看護師の明るい言葉で、ヒロトは胸を撫で下ろした。
枕に頭を預けるようにベッドに横たわると、溜め息と共に瞳を閉じる。
「でも本当に良かったです……目を覚まして。頭を打ってたみたいで心配してたんです」
「ヘルメット被ってて良かった……」