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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 99

アラブでは賭け事が禁止の為に競馬は純粋な娯楽として存在している。
だから日本のような調整ルームで過ごす訳ではなく若干緩さもあって、人の交流もし易い。
ただ澪も寛子も英語が話せないので、交流と言っても片言でも日本語が話せるシャロンぐらいになってしまう。

「英語覚えようかな・・・」
「そうね、今後の課題ね」

なんて話も寛子とする。
かつて海外遠征した競馬関係者は、日本と海外のレベルでは30年程の遅れを感じたと言う。
今では技術も進み、随分と進歩したと思うが・・・
香港にすら追いついていないのは肌感で分かる。
澪も同世代のシャロンに技術的に負けていたし、寛子もブラウンウッド厩舎の厩務員達の実力に驚かされた。
だから学ぶ為にも英語覚えないとと思うのだった。

「岡江さんにも『海外で沢山学んで来るんだよ』って言われたわ」
「そうよね、岡江さんもそうやって海外に触れて来てるものね」

その岡江は、今頃アメリカでシンボリルドルフと共にいるのだろう。

あの皇帝が海外馬相手にどこまでやれるのかという期待はある。
ただ、厩舎とオーナーの間に板挟みされて決していい状況とは言えないはずだ。
自分たちは理解ある関係者に恵まれているな、と澪は心から思うのだった。

「シャロンさんの馬は牝馬なんだけど、ここで結果を出せば海外からいいオファーが来るとかって、ガーベラ様のオーナーの関係の方が言ってましたね」
「そういう世界なんだね…」

香港には馬産というものが存在せず、ほとんどの所属馬は他国からのトレードという形をとっている。
そのためすでに去勢されたオス―騙馬が数多い。

アバディーンはアルゼンチン産駒だと言うのもあって、このレースは言わば品評会的な側面もあるそうだ。

「アルゼンチンって!」
「競馬も盛んらしいわよ、日本にもエルセンタウロと言う種牡馬も輸入された事があるし」

澪は驚くが寛子は知っていたようである。
アルゼンチンも知る人ぞ知る競馬大国の一つだ。
そのエルセンタウロはアルゼンチン生産馬で天皇賞優勝馬ニチドウタローを輩出していた。

「やっぱり世界は広いよねぇ」
「そうね、広いね」

寛子とそんな会話をしながら澪とフルダブルガーベラは本馬場に入ったのだ。


ナド・アルシバはアメリカのチャーチルダウンズ競馬場をモデルに建設されたが、形状はそれとは違い大きな三角形となっている。
アメリカを参考にしただけに平坦コースで左回り。
芝は砂漠の国だけに少し特殊で、ダートは参考にしたアメリカ風の硬い高速馬場である。
日本とは逆にダートコースが外側にあり、一周2200m程と大きな競馬場である。
そして見どころは600mの長い直線だ。

UAEダービーはバックストレッチからのスタートであるが、スタートして暫くすると三角形の頂点のカーブがある。
そこから少し直線があって、コーナーを回って長い直線で終わる。

(大きな中山って感じなのかなぁ)

何て思いながらスタート位置に向かう澪。
日本にも阪神や中山と言った癖のあるコースもあるから何となく理解はしやすい。
スタートしてコーナーが近いから、スタートからの位置取りは大切だと思うが、東京の2000m程の窮屈さは無い。

ゲート入りは少しカリカリしているが、これは許容範囲。
鬣を撫でてやり落ち着かせつつスタートを待つ。

そしてゲートが開く。
やはりアメリカ勢はスタートがいい。
特にスノーチーフのスタートはスターライトブルーを彷彿とさせるロケットスタートで、瞬く間に先頭を走る。
その後ろにアメリカ勢が2頭。
その直後に内からファーディナンド、ガーベラ、アバディーンと並んで追走する。

両脇に挟まれたガーベラが少しイライラした感じはあるが、掛かる程影響は今の所無かった。

前半は折り合い重視、スタミナを維持しつつ前との差も詰めたい。
飛ばし気味にも見えるスノーチーフだが、あの馬にとってはこれこそがベストなのだろう。
下手について行くとこちらがスタミナを消耗してしまう。

間もなく直線だが、スノーチーフのリードはまだ3馬身ほど。
ファーディナンド、アバディーンとも徐々に鞍上の手が動いて進出体勢だ。
ガーベラもそれについて行きたい。

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