PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 83
 85
の最後へ

駆ける馬 85

まあ、樹里に対して小娘が生意気なと言う話なのだが、思った以上にそれが多い意見なのだ。
同じ海外遠征志向のシンボリルドルフの馬主、大和田は樹里を快く思ってない馬主の筆頭らしく、逆に吉野からは直接激励を貰う等、応援する馬主も少なからずはいる。
調教師達も意見は分かれているが、樹里にとって馴染みの薄い美浦の調教師には否定的な人が多いようだった。

「こんな閉鎖的な空気が変わってくれればいいのですけどねぇ」
「そうですね・・・競馬界は交流で成り立っていると思っていますから」

奥原は機会あれば海外もと思っているので、今回もラモーヌの出走が無ければ見に行きたいぐらいだった。
そんな話をしながら、本題に入る。

「ラモーヌはどうですか?」
「そうですね・・・かのルドルフではありませんが豪語させてください・・・敵はいません」

今回初めての関西遠征かつ、直前輸送で臨む。
だが、それだけの自信を持って挑めるぐらいリュウノラモーヌの状態は良い。

「ウィンドフォールも良いですが、リュウノラモーヌは別格だと思っています」

挑むのは2歳牝馬のGT、阪神ジュベナイルフィリーズ。
メンバー中重賞を勝っているのがラモーヌとあと1頭いるくらい。
断然の1番人気が確実と見られている。

「是非白幡さんを競馬会の表彰式に参加してもらいたくて」
「そうなるといいですね」

澪が香港に行けないのはこのラモーヌに騎乗するからだ。
奥原には美浦の実力者を乗せるべきでは?と言ってくる者もいたという。

『一度任せた以上、心中する・・・人も馬もそうじゃなきゃ育たないよ』
それは師でもある父から受け継いだ言葉。
一度任せた以上は変えないと言うのが奥原の流儀だった。

『それに・・・相原澪はもっと大化けするよ』

奥原はそう常々言っていた。
確かに澪はトップジョッキーと比べて腕は劣る。
それはまだ経験不足で未熟なだけだと思っていた。
つまり機会さえあれば大化けする・・・
それは、澪の柔らかい乗り方はトップジョッキーですら無い彼女の武器で、それが経験を積めば伸びると見ていた。


そんな奥原が澪と挑むG1、阪神ジュベナイルフィリーズがいよいよ始まる。
一番人気はリュウノラモーヌ、それにスイートナディア、ダイナフェアリーが続く。

パドックでも漆黒の馬体が映える。
曇って寒さもあるが、馬場の状態はいい。
ラモーヌを引く愛美も馬体の良さだけでなく、歩様の力強さもしっかり感じている。
自然と笑みがこぼれてくるぐらい出来はいい。

「これは素人でも見ただけでいい馬ってわかるよ」

パドックで眺める紗英も目を細める。

「こんな馬が残ってたんだね」
「彼の残した最後の宝物だろうな」
叔父も頷きながら仕上がった馬体を見つめる。

パドックでの落ち着いた佇まいは将来の女帝候補とまで言われそう。
騎乗する澪も馬体を見た瞬間思わず唸る。

香港とこちらで悩んでいた澪だったが、仁藤からは『日本で乗るべき』と言われて決めた経緯がある。
他所の厩舎・・・しかも馴染みの無い関東と言う事もあって、信頼関係が出来るまでは降りない方がいいと言う事だ。
そんな師の判断に澪も感謝しかない。

その仁藤は香港入りして阪神競馬場にはいない。
仁藤だけでなく、今週出走馬のいない仁藤厩舎の大半が香港入りしていて澪も少し寂しさもある。
だがその分、遠征してきた奥原厩舎の面々の暖かさに助けられている気分だった。

「最高の仕上げをしてきたから後は宜しく」
「はい、強い所を見せてきます!」

奥原からそう託された澪。
そしてパドックで跨った時、それを更に確信する。
これで勝てない筈は無いと・・・

パドックから地下馬道を通りながら愛美と澪が話す。

「調子が良いからきっと行きたがると思うから、そこは気をつけてね」
「はい、心に留めておきます」

唯一の心配が調子が良すぎる事と言うのが皮肉な話だ。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す