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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 78

スタンドがどよめく。
鞍上の制止も聞かない大暴走で、外目を通りながら4番手あたりまで一気に上がってしまう。

ペースが上がりスズマッハが後退気味。
前はリキサンパワー、ワカオライデン、ルドルフが上がりその後ろにウインザーノット。
ニホンピロウイナーは馬群の真ん中でシロノライデンは後ろから4番目。さらに後ろにギャロップダイナ。

異様なざわつきの中レースは直線の攻防へ。
リキサンパワーが失速し早くもシンボリルドルフが先頭。
それを追うのはウインザーノットとワカオライデン。

調子が上がらず出遅れ・・・
そしてバックストレッチからの暴走。
これだけの事が有れば勝つのは普通に無理だ。
だが、直線で先頭に立ったシンボリルドルフの脚は力強い。
後続を引き離して駆けていく。
それはまさしく皇帝の走りだった。

澪とシロノライデンは馬群に囲まれていた。
後ろからギャロップダイナが外側を捲って行っても動けずにいた。
ひたすらにその時を待つ澪・・・
そして、失速した馬を避けるのにばらけた馬群に一筋の道が見えた。

澪の鞭が入る。
残り300m・・・
まだ最後方に近い位置。
だが、大地を揺るがすような大きな跳びでシロノライデンが猛然と加速する。

たった100mで10頭をごぼう抜き。
猛然と先頭集団に迫る。

失速したワカオライデンを一瞬で交わす。
ニホンピロウィナーの横をすり抜ける。
粘るウインザーノットに食らいつくシロノライデン。
その外からはギャロップダイナ。
残り100m・・・

とうとうウインザーノットが力尽き、追い込み馬2頭が猛然と皇帝に詰め寄ったのだ。

道中で何があっても皇帝は皇帝だった。
スタンドの歓声が最高潮に達する。
あと100mを粘り切ればいい、多くのファンもそう願っていただろう。

しかし、ゴール手前で皇帝は力尽きた。
それを首を伸ばして捕らえたシロノライデン。
ついに皇帝に勝利した!

…のだが、シロノライデンの半馬身先にはギャロップダイナの姿があったのだ。

大波乱にスタンドがどよめく。
岡江は項垂れ、澪は天を仰ぐ。
やるだけやって負けた・・・
これはもう仕方の無い事であった。

「よく頑張りました」

馬主席で見ていた樹里が微笑む。
ギャロップダイナがシャダイソフィアに送ったエールのような気がしていたからだ。
負けて清々しい気持ちでもあった。

一方、澪は検量に戻って仁藤と会う。
師匠の思いの外穏やかな顔に少し驚きつつも頭を下げた。

「すいません・・・力不足でした」
「惜しかったな・・・充分や」

短い師の言葉。
悔しさはあるのだろうが、それを顔に出す事は無かった。


皇帝敗れる。
スタンドはどよめき・・・そして凍りつく。
だが、シンボリルドルフ陣営にこの敗戦ショックは見えなかった。

『競馬に絶対は無い・・・だがシンボリルドルフには絶対がある』

そこまで言い切る陣営。
そして、それは次のレース・・・
ジャパンカップに万全のシンボリルドルフを出すと言う決意にも聞こえたのだ。


天皇賞の興奮が少し冷める中、エリザベス女王杯が行われる。

ギャロップダイナに引き続き、グローバルダイナが栄冠に輝いたのは、それこそ僚友シャダイソフィアへのエールなのだろう。
その週には樹里も涼風ファームを訪問していた。

ジョンに刻まれた深い隈・・・
相当疲れているらしい。
と言うのも、4兄弟が交代で寝ずの番でシャダイソフィアに寄り添い、ベルト固定された身体をマッサージし続けていたからだ。
その疲労した顔に絶対救ってみせるとの決意が感じられて、樹里も胸が詰まってしまったのだ。

シャダイソフィアも見せて貰った。
2週間程ですっかり痩せ衰えた馬体・・・
固定されても大人しくしてるものの、素人の樹里が見てもいつ死んでもおかしくないぐらい衰えていた。
それだけこの治療が過酷だと言う事なのだろう。

「兄貴によると、再手術の経過も順調だから、年明けまで持てば良い方向に行くかもしれないってさ」

それまで生きれるかは結構難しいねと、楽観はできないと言うジョン。
彼等は母国でこれを経験してるらしいが、中々にハードなものであるらしい。

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