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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 77

その地獄の苦しみを味わった上で死ぬと言う事もあり得るのだ。
最終的には馬主の吉野の判断となるが、生かすのも殺すのも酷い選択になるのは間違い無い。

その吉野は馬運車の外で職員と獣医と話していた。

「何なんですか・・・あの人・・・」
「あんな腕前の獣医がいるとは・・・」

職員も獣医も素人ではない。
エリックの処置自体が何をしてるのかは理解していたが、それは見た事の無い技術だった。

「そんなに凄いのか?」
「え、ええ・・・本場の獣医と言ってましたが・・・若いのにとんでもない腕前ですよ!」

獣医が興奮するのに驚く吉野。
もしかしたらと期待もしてしまう。

そんな会話もあってか、吉野はエリックにシャダイソフィアを託す決断をした。
エリックは年を越せれば命は繋げる可能性が高まると言い残して、馬運車と共に北海道へと向かったのだ。


気が気でないまま、樹里は翌日に東京に居た。
吉野は流石に見てられないと北海道に向かったようで、そのまま涼風ファームに向かうとの話だった。


翌日日曜日、秋の天皇賞。
大一番を迎える府中の舞台も前日の衝撃を払しょくできず、ざわついていた。

絶不調期を何とか脱したシンボリルドルフが当然のことながら圧倒的な1番人気に推される。
夏競馬でさらに力をつけたウインザーノットが2番人気、距離延長で挑む短距離王ニホンピロウイナーが3番人気。それにシロノライデンが続く。

宝塚記念を勝ちながらの4番人気はかなり安く見られ過ぎな感はある。
ステイヤーのイメージが強いシロノライデンだから、こうなったのはあるが陣営からすれば不満しかない。

「見せつけてやりますよ」

澪の言葉が全てだった。
シロノライデンがステイヤーであるのは事実だが、中距離で活躍出来るだけのスピードも備えていると思っていた。
仁藤も同じ気持ちで、この天皇賞に向けて最高の仕上げをしてきた訳だ。

今年も大レースはあと、ジャパンカップと有馬記念があるが、師弟で天皇賞にピークを持ってくる調整をしてきた。
3つの大レースを戦うなら、ジャパンカップぐらいにピークを合わせるものだが、そんな事よりこの一戦に賭ける思いの方が強い。

「引退した後の事を考えれば、是が非でも中距離での勲章が欲しいのですよ」

そう樹里に語った仁藤。
例えば、シーホーク産駒の生粋ステイヤー、モンテプリンスやモンテファストは種牡馬として相当苦労している。
あれだけの良血馬に関わらずだ。
だからこそ、中距離G 1を獲る事は大事な訳となる。

古馬の王道路線が中距離レースへとシフトしていっている時代。
2000mという距離はチャンピオンディスタンスと呼ばれる。
中距離のGTを勝つことで種牡馬としての価値も上げたいという思いが仁藤の中ではあった。

6枠11番シロノライデン。
単勝人気はゴールドウェイやスズマッハと4番人気を争うという位置。
澪には人気以上の自信があった。

レースはスズマッハとリキサンパワーの先陣争いに始まり、ウインザーノットはそこから距離を置いて3番手。ニホンピロウイナーは中団、シンボリルドルフとシロノライデンは後ろから4,5番手。その前にギャロップダイナがいた。

これは、シロノライデンにとっては予定より前の位置、シンボリルドルフにとっては予想より後ろの位置になる。
シロノライデンとしては多分生涯初の好スタートを切ってしまい、何時もより前の競馬になった誤算だったが、ルドルフのそれは完全出遅れであった。
外枠から馬体を合わせてきたルドルフを見るに、何時もの皇帝とは違う印象を澪は受けてしまった。

澪としては本来は最後方から外に出したかったのだが、好スタートとシンボリルドルフの出遅れが影響して内に閉じ込められる結果となった。
前方でギャロップダイナが蓋をすると言う位置取りが更に苦しいのだが、こればかりは仕方が無い。
むしろ内側で気配を殺す事に努めた。

そんなシロノライデンにとって、唯一良い事はペースが早いと言う事。
先頭が潰れてばらけてくれれば内が開く筈だ。


レースは先頭集団が引っ張る早いペースで進んでいく。
だが、ここで誰もにとってもう一つの誤算が生じた。
バックストレッチでシンボリルドルフが掛かったように加速し始めたのだ。

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