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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 76

そんな過去があったらしいが、樹里としてもあってもおかしくないとは思った。

「どうして止めたのかしら?」
「孕んだからな」

凄く納得した。
この色欲兄弟の姉だけにありそう過ぎる。
そんな話をする樹里とエリック。
そして澪の方だが、跨って余計にスターライトブルーの調子の良さを感じていた。
更に返し馬で走ると警戒なスピードに自然と笑みが溢れてしまう。
今回の相手関係的にもハナ争いしそうな馬もいない。
と言うか、前走のエルプスとの激闘を見てハナを強引に狙いにくる馬がいるのかは疑問だった。

そんなレースがスタートする。
スターライトブルーは内枠でロケットスタート。
スタートだけで馬群を突き抜ける。
だが、その後ろの馬群でとんでもない事が起こったのだ。

シャダイソフィアも好スタートを切りスターライトブルーに迫ろうとしていた。
だが内側のオサイチボーイも同じ速度でスタートしており、更に外側からローラーキングが寄せてきた。
両方に挟まれて行き場を失ったシャダイソフィアは・・・
オサイチボーイと共に転倒したのだった。

吉野が悲壮な声で叫ぶ。
エリックの顔も変わる。

「私は獣医だ・・・行こう!」
「あ・・・ああ・・・」

蒼白になった吉野と共に馬主席から出るエリック。
樹里も気が気では無く、レースの内容が頭に入って来なかったのだ。


駆けつけた吉野とエリック。
その2人に職員が告げる。

「残念ですが・・・」

予後不良・・・
シャダイソフィアは開放脱臼を起こしていて最早助かる見込みは無く、殺処分を待つばかりだった。

「私は獣医だ・・・見せて貰えないか?」

そう言うエリック。
職員は少し嫌な顔をするが、吉野の悲痛な顔で頼まれ最終的に許したのだ。

エリックが脚を見る。
そして吉野に問う。

「見込みは無くない・・・だが、馬に助かる補償も無いのに長く地獄の苦しみを与えるのは間違いない」

エリックがそう返すと、吉野はエリックを見返す。
吉野はエリックの腕前は知らない。
だが、シャダイソフィアが彼にとって特別な馬だった。
目の前の外国人が獣医と聞き藁にも縋る気持ちだったのは確かだ。

「ああ……頼む…彼女は私の宝でもあり、牧場の宝でもあるんだ…何とか、命が助かるのであれば……」

震える声で言葉を紡ぐ吉野。
樹里はオロオロしながら吉野とエリックと、職員の表情を見比べることしかできないでいた。

「わかった。ミスター吉野、相当の覚悟も持っておいて欲しい」
「ああ、もちろんだ」

「俺は治療に集中する。ジュリは、表彰式に行ってくれ」

「分かったわ・・・」

そう言われて表彰式に向かったものの、樹里は気が気では無い。
勿論、表彰式もこう言う事があれば素直に喜べないのが現実だ。

「馬はよく走ってくれましたが・・・非常に残念です」
「ええ、仁藤先生・・・自分の馬で無いとは言え、心が痛いものですね」

お互い素直に喜べないのが素直な感情なのは仕方ない。
樹里もレースの様子は全く頭に入っていなかったが、あの騒動の中、スターライトブルーは危なげない逃げ切り勝ちであった。

「素直に祝福と感謝をしたいのだけどごめんなさいね」
「いえ、競馬サークルに居る者として気持ちは共有してますから」

澪とて心配である。
これまで予後不良の馬は見てきているが、それが自分が関わった馬で無くとも心は痛い訳だ。
むしろ樹里がその気持ちを共有してくれてる事が有難い。


その表彰式を終え、馬運車に向かう樹里。
中にはエリックだけがいた。

「どう?」
「処置はした・・・だが、これが始まりだ」

エリックの声と表情は固い。
横たわるシャダイソフィアの脚には白いギブスが取り付けられていた。

脚はボルトにより骨を固定され、ギブスをされているが、これはエリックによると応急処置であるらしい。
シャダイソフィアは今、麻酔で眠らされているが、一刻も早く輸送して再手術・・・
そして治療に入る事になる。

「数ヶ月はベルトで馬体を固定させて骨が付くのを待つ事になるが・・・馬にとっては地獄でしかない」

サラブレッドは極限まで改良された品種であり、その脚は普通の馬以上に脆弱だ。
故に一本でも脚が潰れると、残り三本の脚で身体を支えるのが無理で、生きてはいけなくなる。
なのでその時点で安楽死させた方が慈悲とも言えるのだ。

「殺すのもエゴなら、生かすのもエゴなのだ・・・」

吐き捨てるようなエリックの言葉。
ここからの治療がどうなるのか知っているからこその言葉だった。

エリックの計画では、涼風ファームに連れ帰って治療に当たる。
ベルトで馬体を固定して脚への負担を減らすようにするのだが、そうすると馬の内蔵にダメージを負い地獄の苦しみを味わう事になる。

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