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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 74

これで天皇賞に向けていい調整になった。
後はシンボリルドルフとのマッチアップで全力を尽くすのみ。
澪はそう決意して検量に向かったのだった。


その10月に2歳牝馬交流重賞のエーデルワイス賞がある。
門別競馬場は小さなトラックで平坦コース。
典型的な地方競馬場だった。
そこに観戦に来た樹里。
樹里だけでなく近いと言う事でエリックと真奈も来ていた。

すっかりお腹が大きく目立つようになってきた真奈。
出産予定は年明け頃になりそうである。
エリックと寄り添う様子は、仲の良い夫婦にしか見えない。

「ラルフがアメリカで走らせたいと言ってた子だからね」

エリックがそう言う。
涼風ファーム生産馬ではないが、最終的な育成はラルフが行った。
ラルフ的には今年一番のお気に入りだったらしく、行けないのを残念がっていたらしい。

「裕美さんが早産になりそうだとか・・・」
「ああ、大丈夫なんだが心配性なのでな」

外国人らしいと言うか、愛情の深さに思わず樹里も笑みがこぼれてしまう。

少し羨ましさも感じるが、今は愛馬のレースを楽しもう。
樹里はそう思いながらパドックでの様子を確認する。

フルダブルガーベラは単勝3番人気。
中央の馬は未知と言う地元ファンの見方だろうか。
「舐められてるって思わないか?」
「私は妥当な評価じゃないかと」

「気持ちのコントロールさえできれば長い距離もこなせるはずさ。トリプルティアラやBCディスタフだって狙える」

論評しながら出走を待つエリックと真奈の様子は新婚夫婦らしさがあった。
実際、4兄弟はそれぞれのパートナーと法的に結婚と言う形を取っていて、更に婿入りと言う形になっている。
これは国籍問題をクリアする為の事もあるが、4兄弟が家名にさほどこだわっていない事も大きいのだと思われる。
本家であるスノーベリー牧場は彼らの姉であるアネットが継いでるのも関係あるのかもしれない。

そんな中、レースが始まろうとしていた。
レースは12頭と中々良い数。
狭いコースだけにごちゃつくと取りこぼす可能性もある。
地方競馬の攻略法は兎に角先行すると言うのは澪も頭に入れているし、先行力に感じては問題の無い馬である。

ゲート入りもさほど苦労しない。
ただ真ん中の枠を引いたのは少し嫌ではあった。
気の強いフルダブルガーベラが少し苛ついている感があった。

そしてゲートが開く。
スタートは悪くない。
上手く先行できて3番手につける。
小さなコースで短い距離だけに、これはまずまずいい位置につけれた。

馬群に包まれる形は良くない。
前走の芝のレースではスタートもひと息だった上、行き脚もつかず馬混みのど真ん中で走らせてしまった為半ば自滅のような負け方だった。
フットワークも芝の走りではないからこの舞台を選んだ。
思い通りのレースができている。

4コーナーでは前を行く2頭の外から並びかけ…いや、一瞬で交わし去った。

もうこうなれば独壇場。
短い直線で千切れるだけ千切ってゴール。
強さだけを見せつけるレースとなった。

「これぐらいは出来る馬だ・・・日本の大牧場もただ名馬と名馬をかけ合わせているだけで無い事を、覚えておくといい、マナ」

エリックが微笑みながら言う。
何だかんだと言いながら真奈に色々教えようとしている姿に樹里も笑みが溢れてしまう。

「ブレイヴェストローマンだからダートで走るのでは?」
「違うな・・・種牡馬としての能力も年度により変化するし、母馬の血統構成、馬体のバランス、ニックスやクロス・・・様々な要因を突き詰めて一頭の名馬が出来るのだ」

うーむと唸る真奈は経験があるだけにエリックの言う事は分かる。
だが、奇跡を信じたいと言うロマンも捨てきれない顔だ。
樹里の方はエリックのそんな言葉に感心するばかりだった。


ここを買った事でフルダブルガーベラは全日本2歳優駿に満を持して進む事になった。
それだけでなく、今後のダート路線を賑わしてくれそうな予感をさせるレース内容だったのだ。

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