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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 68

「博之さんに乗ってもらいたかったですねぇ…」
「そうだな。でも彼女も博之と同じで、とても綺麗なフォームでうまくやってくれたよ」
「ラモーヌも、是非」
「まあ栗東の子だからなぁ…オーナーはきっと賛成してくれるだろうけどな」

愛美は澪の姿を見ながら、彼女の為に次走め愛馬を最高の状態に仕上げよう、と心に誓うのだった。

そして、今年の夏の涼風ファームは忙しかった。
去年の生産馬の重賞制覇すら大事だったのだが、今年はG 1まで勝ってしまった。
そのお陰であちこちから祝福やら取材やらで大忙しとなってしまうだけでなく、ちらほらとファンが訪れるようになったのだ。

その対応を一手に引き受けたのは真奈だった。
勿論、立場的には幸子に次ぐ副牧場長であるから仕方ないのだが、一番の原因は妊娠である。
もう幸子や裕美はお腹が大きいし、百合に対応はさせれない。
敦子も手伝ってくれるのだが、彼女も妊婦だ。
そもそも真奈も妊婦なのだが、やはり立場上やらざるを得ない訳だ。

そんな真奈にとって一番の誤算は幸子の妊娠だった。
本人も終わったと思っていた月経がエリックに可愛がられて回復したようで、見事に受胎。
50を前にしての妊娠は予想外過ぎて、本人も真奈も困惑してしまった。
だが、産む以上は無事に産まれて欲しいと願うばかりだ。

そんな中で彼女の癒しは、久しぶりに牧場に帰ってきたシロノライデンだった。

出産から立ち会った馬と言う思い入れもあるが、この馬のおっとりとした性格には癒されるものがある。
当のシロノライデンは故郷の事や彼女達の事を覚えているのか忘れているのかも分からない。
故に最初はソワソワしていたが、数日すると彼女の知るシロノライデンに戻っていた。

シロノライデンの母馬のシロノホマレも非常におっとりした馬だった。
子出しはそこまで良い馬で無いが、丈夫な子を沢山産んだ。
ただ産んだ子は条件馬が殆どで、最後に産んだシロノライデンが唯一の大物だった。
真奈の父、慎太郎が絶対に大物が出ると信じ続け、最後の賭けで種付けしたダイコータが当たった訳だが、それを見る事はできなかった。
そしてシロノホマレも今では繁殖牝馬を引退し、子馬達の面倒を見るリードホースとしての余生を過ごしている。

のんびりと草を食むシロノライデンを見ながら、今度は自分の手で強い馬を作りたいと思う真奈だったが、エリック達と自分の実力差を思えばまだまだ道は険しい。

エリックに言わせればシロノライデンは「あの血統とか母馬からあんなに強い馬が出るのは奇跡」らしい。
真奈はその「奇跡」を信じて強い馬作りをやってきたが、エリックにはナンセンスだと言われ否定されたのだ。

「何が起こるかわからないのが競馬なんですけどね…」

放牧地で駆け回る仔馬ーアキネバーの85を見ながら真奈はため息をついた。

この真奈が生産した子馬達が活躍してくれたら1つの証明になるのだろうが、子馬達は少なくない問題を抱えている。
そして今の所、シロノライデンやスターライトブルーのような素質を見せる子はいない。
ラルフやジョンからは、育成でどうにかするつもりだが、どうにもならない時にオーナーに所有して貰うならレベルを落とした所・・・
つまり地方で走らせるのも手だと言われている。

それが今の真奈のレベルなのだろう。
エリック達には大きく及ばないのは仕方ないとして、慎太郎のレベルまで達していない。
今年の種付けで全く意見を受け入れて貰えなかったのも自分でも当然だと分かってはいた。
だが、悔しさはある。

そして悔しいと思いつつも、かつて娘の奈帆に言われた言葉を思い出す。

『ママは妻である事より、母親である事より、馬作りより・・・女を優先してるじゃない!』

離婚した時に言われた言葉だったが、この言葉はかつて真奈が幸子に言った言葉だ。
その事がショックだったが、奈帆の言う通り自分は中途半端だったのだろう。

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