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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 67

高島は遅咲きの苦労人で人情家でもあり、奥原も嫌な顔一つせず頼みを聞いてくれる高島を心から信頼していた。
彼は末期の癌である事を隠しながら騎乗を続け、オークスでは2着、ダービーでも果敢な逃げで場内を沸かせた。
そのダービーから2週間程後、癌の悪化による急死・・・
奥原が高島に9月にデビュー予定のリュウノラモーヌを頼もうと思っていた矢先の事だったのだ。


そんな中での8月の新潟開催。
ウィンドフォールのデビュー戦があった。
本来ならこれも高島に任そうと思っていた馬で、代わりに関東屈指の名手、加護に騎乗依頼をしたのだが・・・
彼は同じレースに乗り馬があって断られてしまう。
それで代役を立てたのだが、代役騎手が負傷・・・
とことんツイてないなと頭を抱えた所に1人の騎手が通りがかった。

「いい所にいた相沢っ!」
「奥原先生、お久しぶりです」

たまたまお手馬が新潟遠征だった澪であった。
遠征であるから、彼女はレースが1つのみで暇を持て余していた所だった。

「いきなりなんだが代役頼めるかい?」
「勿論です!」

新潟芝1400の新馬戦。
調教でいいスピードを見せており、前向きさもあるから短めの距離を使うことにしたが、奥原の目標はクラシックロードに乗せることである。

「次の新馬に使う馬なんだ」
「はい、いい馬だって聞いてます」
「君も懇意になっているオーナーの馬だからね」
「あっ、そうなんですね!頑張ります!」

そして、澪がウィンドフォールに跨った印象は、非常に敏感な馬だと言う事だった。
普段から調教で乗っていたり、同じ関西の馬だったらある程度知ってはいるが、こうやってテン乗りの場合は全く情報が無い。
故に乗った感じの第一印象は大事だ。

「敏感な子ですよね」

澪がそう言うと、引いている愛美が感心したように澪を見る。
乗ってすぐ馬の特徴を掴めるのは才能なのだろう。

「そうよ、敏感で繊細な子だから気にかけてあげてね」
「わかりました・・・ありがとうございます」

敏感で繊細かつ神経質な所があるウィンドフォール。
同じ2歳馬でもリュウノラモーヌの方が図太い神経している。
その為か、厩舎でのあだ名は王子様。
だが、その性格は全てこの馬が賢い故の事だ。
その賢さとポテンシャルがこの馬の最大の武器である。

パドックから馬場に向かって返し馬。
軽快なフットワークに澪の頬も自然と緩む。
これは中々素晴らしいスピードをしていたのだ。

スターライトブルーやフルダブルガーベラのように我が強いところはないけど、フットワークは軽くて乗り心地の良い馬だと感じた。
ヤンチャなクセ馬の多い仁藤厩舎の所属馬に慣れている澪にとってはちょっと珍しい感じのする馬でもあった。

レースに行ってからは真面目で、すんなり先行していいスピードを見せて優等生の競馬をしてきっちり勝利に導いた。

「なかなかやるものだねぇ」

帰ってくる澪を見ながら感心する奥原。

「上手いヤネは沢山いますけど、やの柔らかい乗り方は繊細なあの子に向いてるんじゃないでしょうか?」

愛美もすっかり澪を気に入っていた。
彼女からすれば年齢が少し上ぐらいの同年代と言うのもあるが、騎手を目指した事がある彼女自身にとっても澪はリスペクトできる騎乗をしてくれた。
上手い騎手は多く見てきているが、あんな柔らかい乗り方をする騎手は数が少ない。

「そうだね・・・あんな柔らかさは、かの天才福山か・・・博之ぐらいだな・・・」

奥原の出した名前に愛美も少し目が潤む。
福山は関西を代表する名手であり本物の天才であったが、落馬事故で再起不能になっていた。
そして、博之と言うのは奥原厩舎所属騎手であり奥原の親友でもあった高島博之の事だ。
愛美にとっても良き先輩であり、本当に可愛がって貰った思い出しかない。
騎手から落ちこぼれて厩務員として働いていた愛美に、調教助手と言う道を示してくれたのも高島だった。

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