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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 65

小柄で可愛い感じの少女と言う印象だった澪だが、顔つきが引き締まって精悍さも出てきた気がする。
G1勝った自信がそうさせたのだろうが、今の澪の充実ぶりはそう言いたくなるぐらいであった。

澪が背に乗ると、嘘のようにフルダブルガーベラが大人しく歩き始める。
若干チャカチャカした感じの歩様ではあるが、乗って無い時のあのエキサイトぶりが嘘のようだった。

澪はこの馬が大人しくなったとは思っていない。
賢い子だから騎手が乗れば走らねばならないと分かっている。
だが、人に従わねばならないと思っているが、フラストレーションを溜め込んでいるタイプだ。

怒りを内面にグッと抑えている精神力は、今まで澪が見た事の無いタイプだ。
余りの気性の激しさ故に馬房に『猛獣注意』と貼られたりしてるし、澪も本気では無いものの噛まれたぐらいだ。
兎に角、自分の思い通りにならないと不機嫌になる癖に、調教で跨ると途端に素直に走る。
賢いと言えばそれまでだが、普段の振る舞いは暴君そのもの。
『女帝』と厩舎では呼ばれている程だった。

先輩古馬相手でも物怖じせず、シロノライデンすら威嚇するほど。
馬体では圧倒するシロノライデンがフルダブルガーベラに委縮してしまう姿は寛子曰く笑ってしまうそうだ。

そのフルダブルガーベラが馬場入りする。
大外枠からのレースなので一番最後の馬場入場。
足取りは悠然。

「ずっといい子でいたらいいのにね」

弾むように駆け出す。

全身がゴムマリのような弾力があって脚の回転も速い。
蹄の形からしてもダートでよく走る感じがしている。
これがまだ2歳と言うから先々が楽しみだ。


ゲートが開くと、中々良いスタート。
スターライトブルーのようなロケットスタートとは言えないが、気持ち良くスタートできて3番手につけた。

3番手で内側に綺麗に付く。
気性が荒い癖にレースに入ると優等生のように澪の指示に従い好位に位置していた。

ペースは平均的。
先頭から2馬身程後ろの内側を走る。
飛び散る土飛沫にも怯む様子は無く、コーナーリングもスムーズだ。
今の所、優等生と言っていい走りなのだが・・・
激しい気性を押し込めているような性格に少し危うさも感じていた。

バックストレッチで先頭を追う3番手を走るフルダブルガーベラ。
澪と共に上手に走っていたが、上手くいく馬ばかりではない。
後ろから2頭程、掛かってしまってフルダブルガーベラを追い抜かして加速していったのだ。

それに女帝が機嫌を損ねた。
手綱から感じる怒りに澪はヒヤッとする。

なんとか宥める。
直線まではこの闘争心を潜めていたい。
澪はシロノライデンやスターライトブルーとはまた異なる緊張感をもってフルダブルガーベラの手綱を持っていた。

ガ―ッと行きたい気持ちを押さえて、何とか4コーナー。
直線を向くと、すぐに先頭に立った。

そこからは圧巻だった。
フラストレーションを解き放った瞬間、フルダブルガーベラは凄まじい加速で後続を置いていく。
鞭を入れた瞬間の反応が良すぎて、澪も一発入れたきりで後は持っただけ・・・
フルダブルガーベラは猛然と駆け続け、ゴールした時は8馬身ちぎっていた。
ゴール後も澪がスピード落とそうとしても落とさず、結局一人だけ1800mのレースをしてようやく帰ってきたのだった。

少し疲れた顔で検量に帰ってきた澪。

「お疲れ・・・女帝様大暴走よね」
「・・・検量で引っかかりそうなぐらいヤラれましたよ」

澪のそんな声に寛子も苦笑い。
スターライトブルーも聞かん坊だが、こっちの方が酷いと言うか、本当に女帝のように気位が高いから苦労させられている。
その苦労も勝てば報われるものだ。


そして、その日のメインは中京記念。
人気はシャダイチャッターとパワーシーダーの牝馬2頭。
他にエーコーフレンチ、マルブツサーペン、ヤマノシラギクなどの有力馬が居並ぶ。
スターライトブルーは3歳馬ながら重賞2勝と言う事もあり2番人気となっている。
パドックで周回する様子は、既に古馬の風格であった。

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