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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 6

淀の坂はゆっくり登ってゆっくり下るのがセオリー。
それは騎手をやっていれば実感する事だ。
先行馬の騎手達はそれぞれが牽制しあってそのセオリーに従えないと焦りもあるかもしれない。
そうなれば後ろの馬にとっては大チャンス。
シロノライデンと共に後方待機の馬達は、先行馬の足が止まる最後の直線に体力温存している。
そして、先行馬達もそう思っているだろう。

だが、澪の手は3コーナから動いた。
それに呼応してシロノライデンが前との差を詰める。
いくらなんでも早すぎる仕掛けに見えた。

「早いぞバカッ!」
「へへっ、のんびりしてると置いていきますよっと!」

余りの早仕掛けで外から捲られたベテラン騎手が怒るが、当の澪は茶目っ気たっぷりに返す。
まあ非常識な乗り方だから注意してくれたのだろうが、シロノライデンはむしろ非常識な乗り方こそ持ち味だと思っていた。
そう・・・
前年の三冠馬が淀の坂を高速で登って降りたように。

シロノライデンとは全くタイプの違う馬だが、破天荒さならいい勝負だと思っている。

これで動いたのがシロノライデンだけだったら単なる暴挙にも見える。
しかし今回はそうでもない。
シロノライデンの動きと同時に前方にいた数頭の騎手も手綱が動き始める。
先行していた馬の騎手も焦ったのか後続とのリードを広げようとしていた。

(これならいける)

澪はシロノライデンの気に任せたまま外目から追い上げた。
第4コーナーを回った時にはもう先頭に並んでいた。

普通なら脚が持たない暴走だ。
だが、シロノライデンは大きなストライドで跳ねるように加速続ける。

「よしっ!行けるっ!」

澪も叫び気合いを入れる。
大きなストライドの馬は瞬間的な加速は無理だが、スピードに乗ってしまえば驚異的な脚を使えるタイプが多い。
それ故のロングスパートである。
そして、その血に流れるのは時代遅れになりつつあるステイヤーの血脈。
父系のヒンドスタンから無尽蔵のスタミナと母父トサミドリからもスタミナを得たシロノライデンは、その雄大な馬体に相応しい強靭な心肺能力を持って生まれていた。
それ故に無謀に見える作戦が取れた訳だ。

澪の鞭に応えて巨体が跳ねる。
グイグイと加速し、残り200mで先頭に立つ。
このままいける!・・・
そう思いながら必死に追う澪だったが、先頭に立ったシロノライデンの力がふっと緩む。

素質がありながらここまでデビューが遅れに遅れたのは、その素質以上の欠点もあると言う事だ。
これもその一つ。
馬が遊ぶと競馬関係者が表現する悪癖・・・
先頭に立った事で馬が集中力を無くしたのだ。

そこまでの勢いが失われて、グーンとスピードが緩んでいく。
澪ももう一度気合を入れさせる為に一発右ムチを入れた。
しかし一度削がれたスピードはなかなかトップに戻すのは難しい。

後続、先行していた馬には手ごたえはない。
道中シロノライデンより後ろにいた中の2、3頭ほどが馬場の外を通って伸び脚を見せる。
中でも大外の1頭の伸びが一番良く、ゴール板の手前でシロノライデンに並ぶところまでやってきた。

必死で追う澪。
殆ど並んでのゴール。
馬を流しながらも、なかなか点灯しない掲示板はがり気になる。
そんな美緒に3コーナで怒りながらもゴール前で競り合いを見せたベテラン騎手が馬を寄せてくる。

「やられたなぁ・・・届かなかったぜ」

その言葉から直ぐに掲示板に着順のランプが点ったのだった。


「仁藤先生、ありがとうございます」
「いやいや・・・最後は私もヒヤヒヤしましたよ」

礼を言いにきた樹里に疲れ顔の仁藤。
見ている方が疲れるレースとは、まさにこの事だ。
欲を言えば、仕掛けをもう少しだけ遅らせればもっと楽に勝てただろうが、それは今の澪に求めても仕方ない。
栗東に居る魔術師や天才と呼ばれるトップジョッキー達ならそう乗ってたかもしれないが、それが出来るから彼らはトップジョッキーなのであり、新人にそれを求めるのは酷過ぎる。
むしろ良く乗ったと褒めていいレベルだ。

「澪が良く乗ってくれました・・・今後も引き続きお願いできますかね?」

仁藤のその言葉にも、それが如実に現れていた。

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