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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 398

その有馬記念。
パドックをトボトボと歩くオグリキャップ。
元から煩い馬では無かったが、この秋頃から歩き方すら元気が無くなっていた。
それ故か、パドックの様子からも『オグリキャップは既に終わった』と言い残念がる声が多かった。

だが、大きいお腹で観戦に来た澪は全く違った感想を持っていた。

「随分力強いわね・・・これは面白いわ」

彼女のその感想は厩務員も感じていた。
普段のオグリキャップは2人で引かねばならない程力強い馬だったが、その力強さが戻ってきていたのだ。

「久しぶりに腕が痛いわな」
「これは・・・ひょっとして・・・ひょっとするで・・・」

厩務員達もオグリキャップの回復を感じていたのだ。
だが、それは全盛期の力からは程遠いのだ。

そんなオグリキャップに悠が跨る。
感じるのは春の安田記念程では無いと言う感覚・・・

「悠くん、どやろか?」
「8割の出来でも勝てる力のある馬ですよ・・・彼は」

往年の力は無いだろうが、悠は澪が『勝てる』と言う言葉の意味も噛み締めていた。
確かに、これなら・・・可能性は大いにある。

ジャパンカップの大敗から、終わったと思われているオグリキャップは単勝4番人気。
1番人気はそのジャパンカップでも健闘した善戦マンのホワイトストーン。
菊花賞2着のメジロライアン、同じオーナーのメジロアルダンがそれに続く。

だが、主役はオグリキャップ。
ラストランにファンは投票一位で送り出し、当日集まったファンのボルテージも最高潮に達していた。
限界説も囁かれ、誰もが勝てるとは思っていないだろう・・・
だが、どこかで奇跡を信じているのも事実だ。

そのファンのボルテージに競走前にヤエノムテキが驚いて、鞍上の岡部幸雄を振り落としてしまう。
そのままコースを疾走してしてしまうハプニングが起こったのも、何か騒動が起きる前触れのように見えてしまう。
そんな中、レースが始まったのだ。


ゲートが開き一斉にスタート。
逃げると思われていたミスターシクレノンが思わぬ出遅れ・・・
オサイチジョージが押し出されるような形で先頭を行く。
そのようなこともあって、超のつくスローペースとなってしまったのだ。
オグリキャップは中団5番手辺り。
悠としては有難い超スローペースだった。

恐らく遅くても折り合うオサイチジョージはペースを上げないし、だからと言って誰も先頭には立たない。
有力馬の一角、放馬したヤエノムテキは2番手でかかり気味となり、岡江が必死になだめていた。

最初の1000mの通過に1分3秒前後。
明らかに遅い。その中で引っかかり通しのヤエノムテキはかなり苦しいレースになる。

オサイチジョージが淡々と逃げ、かかりっぱなしのヤエノムテキに途中から先行するミスターシクレノン、河井に乗り替わったメジロアルダン、それにリアルバースデーが2番手集団でかたまりになる。
オグリキャップはそれを見ながら進み、隣にはホワイトストーン。
メジロライアンは中団からやや後ろあたりを進んでいた。

だがそのメジロライアンも超スローペースに横平が苦慮していた。

そんな中、オグリキャップだけが泰然自若としていた。
この超スローペースにも全く動じる事は無い。
漠然と走っているとも見えるオグリだったが、内面に溜め込んだ闘志を悠は感じ取っていた。

かつて悠が何を考えているか分からないと評したオグリキャップだったが、確かに今も分からない事が多い。
だが、澪や南の騎乗スタイルやオグリの性格を考えぬいた騎乗から、極限まで闘志を溜め込んだ方が後半の怪物的な精神力を発揮できると悠も思っていた。
故にオグリの『まだ終わってはいない』と言いたげな内面に秘める闘志に手応えを感じるのだ。
これならいけると・・・

そしてレースは中盤を過ぎ、オサイチジョージが徐々にペースを上げて行く。
前半の超スローペースで余力は十分。
自分のペースを上手く作れた。
宝塚記念を制したオサイチジョージは決して弱い馬では無い。
これだけのアドバンテージがあれば、十分勝負できる。

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