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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 392

岡江はじっとオグリキャップと増川を見ていた。
増川は中央の騎手として最多勝利を誇る名手である。
無論、岡江の尊敬する先輩の一人であるが、その騎乗技術は正反対である。
自然体で馬優先の岡江に対し、増川は自分の得意スタイルに馬をハメ込む。
故にハマった時の強さは無類であった。

その増川の得意とするのが好位逃げ切りである。
スタートの多少悪い馬でも気合いを注入して先行させていくスタイルで、その巧みさが増川を最多勝利に導いていた。

(でもね・・・それが欠点なんですよ先輩)

オグリキャップは気合いが入り過ぎているように岡江には見えた。あれだけ気合いが入り手を抜く所が無ければ体力は持たない。
そこで持たせてきたのがオグリキャップと言う怪物なのだが、岡江はそれに懐疑的だった。
故にあえてアルダンを蹴ってまでヤエノムテキを選んだ訳だ。
この中距離王者はクラシック時にオグリキャップに子供扱いで負けていた。
だが、今の実力なら勝負になると岡江は思っている。

ハナを切ったロングニュートリノはさすがに飛ばし過ぎたのか大欅の向こう側を通過したところで手応えが怪しくなる。
そのすぐ後ろを行っていたラッキーゲランやマキバサイクロンも同じ。

これはチャンスだと増川は判断したのか、オグリキャップをグンと手綱を押して位置を上げる。
それを見てダイユウサクの村松も追い出しを開始する。

(まだ早いんじゃないですかね、先輩)

岡江は背後でそんなことを思う。
ヤエノムテキの後ろではメジロアルダンも追い出しを始めようとしていたが、そのタイミングでオサイチジョージに馬体を被されてしまう。

囲まれたアルダンを尻目に、岡江は外にヤエノムテキを持ち出す。
さりげなく後続をブロックする位置を選ぶ辺りが岡江が名手たる所以だ。
その為に悠の乗るバンブーメモリーも抜ける所を探さねばならなくなった。

そして直線でジリジリと前に進出するヤエノムテキ。
アルダンは包囲を抜け出せず、オグリも豪脚がなりを潜めてもがいていた。
バンブーメモリーも前を捌くのに必死で、中々前に行けない。

岡江とヤエノムテキとしてはハマった展開だ。
阪神や中山と言ったコースでスピードを生かして勝った印象の強いヤエノムテキだが、その本質は持続力を活かした粘り腰である。
直線半ばで先頭に立つと、その持続力で粘り込みを図る。

そこでようやく混戦を抜け出したメジロアルダンが馬群を抜けて猛追。
更に外からバンブーメモリーが豪脚を披露する。
その中でオグリはもがき続けていた。
あの強いオグリの末脚も精神力も失ったかのように全く伸びずにいた。

図ったようにタイミングよく抜け出し、後続の追撃を凌いだ。
ヤエノムテキ自身の強さもさることながら、岡江の巧いレース運びが勝利を呼んだのは間違いない。

「勝負どころで前が壁になってしまって…あれがなかったら全然違ったはずです」
2着のメジロアルダンの横平はそう言って唇を噛む。

「今日は岡江さんにしてやられましたね」
3着バンブーメモリーの悠は仕方無いという感じで苦笑。

オグリキャップは6着。
まったくと言っていいほどらしさが見られなかった。

これは競馬ファンの期待を大きく裏切る事になり、優勝馬よりオグリキャップの敗戦がクローズアップされてしまっていた。

馬主代行の祐志と瀬戸内が話し合い、次のローテはジャパンカップと決まった。
府中コースはオグリキャップが得意としており、復活を期しての決定だった。
ファンも次こそはと期待しているものが大半だった。


そんな中、ターフを去るものも出てきた。
故障の回復が暫くは見込めないイナリワンが引退を発表。
気性の荒さで不安定だったものの、本格化しだすと地方では破竹の快進撃。
中央では3勝止まりであったが、その3勝全てがG1と言う勝負強さ・・・
間違いなく時代を牽引した馬だった。

そしてもう一頭が・・・
スーパークリークだ。
樹里とエリック達で話し合った結果、これ以上の競争生活は無理と判断したのだ。
むしろ脚元の弱い中で、ここまでの成績を出せた事が凄いと言えた。

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