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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 389

オークス馬ディザイアが最後の一冠を取りに挑む。
秋初戦、トライアルのローズステークスは多少の太め残りがあったものの完勝と呼べるレースぶりだった。
それがさらに評価を高め、ここも断然の1番人気に推された。

水を開けられた2番人気以下はローズステークスでディザイアに迫ったトウショウアイ、紫苑ステークスの勝ち馬ウィナーズゴールド、オークス上位のエイシンサニーが続く。

ここに桜花賞馬アグネスフローラの名前がない。
オークス後に軽度の骨折が判明し、ぶっつけで秋華賞に臨むはずだったが、直前に屈腱炎を発症し引退したのだ。

アグネスフローラの引退でディザイアが圧倒的な一番人気となる。
むしろそうなるのが当然なのだが、それ故に松中も随分緊張してしまっていた。

オークスの時より勝って当然の空気がある。
舘や澪は言うに及ばず岸田や熊崎と言った関西若手勢がG1を制覇している。
松中はその中でもトップクラスの人気者であるが、ことG1制覇に関しては彼らに遅れを取っている。
それに焦るタイプでは無かったし、常に彼らを応援して祝福してきた松中だったが、いざ自分がG1を制覇し争う立場になった事で初めてプレッシャーを感じていた。

そして普段よりプレッシャーで緊張する松中に対して、ディザイアはいつもより入れ込んでいた。
これは仕上げが上手く行って気合いが乗っているからなのだが、寛子が『仕上がり過ぎた』と言うぐらいの出来でヒートアップしていた。
ガラになく緊張した松中とヒートアップし過ぎたディザイア。
そして秋華賞は本命泣かせのレースであった。

1か月ほどの間隔で臨む桜花賞とオークスに比べ、夏を越して挑む秋華賞は春とは別物のレースになりやすい。もちろんディザイアはトライアルを勝っていて馬体も成長していたし力だけなら一番抜けているのは間違いない。

しかし秋華賞は波乱の多いレースだった。
春は全くクラシック路線に絡めなかった馬が急成長したり、京都芝2000mという直線の短いトリッキーなコースや、展開面で番狂わせなことが多々見られていた。

今年のレースはユキノサンライズが果敢に逃げ、それを追って2番手にカツノジョオー、さらにヌエボトウショウ、イクノディクタスと実力馬が先行好位に固まる展開となった。

ディザイアは最後方。
馬群から離れて一頭だけ最後方でレースを進めていた。
ヒートアップしていたディザイアはゲートに入る所で普段より騒ぎ、中々ゲート入りできなかった。
更にゲートの中でも落ち着きが無い。
確かに普段から大人しい訳では無いが、今日は余計にヒートアップしているようだった。
故にスタートも出遅れ気味で、それ故に最後方ポジションと化してしまったのだ。

スタートが上手くいかず、冷静さを若干欠いてしまった松中ではあったが、真っ白になってしまった頭で、本能的にこの位置を選んでいた。
どちらかと言えば岸田や熊崎のように直感的に乗るタイプではないが、彼の師匠の山木調教師からは『しっかり普段から訓練しておれば直感は武器になる』と教えられていた。
それは山木自身が騎手時代に、悲運のダービー馬キーストンから学んだ事で、普段から弟子の松中に教えている事だ。

キーストンはディザイアとは対照的なタイプの逃げ馬だったが、同じジョッキーとして愛馬を導くのには脚質は関係なく普段からの訓練が馬との信頼関係を生む、と松中に教えていた。

だからこその最後方待機だった。

1000mの通過タイムは59秒8、ほぼ平均ペース。
ディザイアの前方には同じく末脚勝負を選んだエイシンサニー、トウショウアイがいる。

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