PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 386
 388
の最後へ

駆ける馬 388

競走馬の中には、高いポテンシャルを持ちながらも不安定な成績に陥るものがいる。
それは様々な問題があるが、最も大きいのが気性だ。
だが、気性が問題で成績が不安定な馬は、時としてその気性が故にポテンシャル以上の結果を出す事がある。
日本で言えばイナリワンの有馬記念制覇は、まさにあの激し過ぎる気性が己のポテンシャルを超えた走りを見せた一例だった。

あの有馬記念で勝利を目前にしながらもイナリワンに差し切られた悠とクリーク。
未だにあの時どうやったら勝てたかの正解は悠には無い。
いや・・・
完璧に乗って負けたのだ。
答えがある筈なんてない。
あの時のイナリワンの走りは例えクリークの鞍上が悠以外のトップジョッキーですら勝てなかっただろう。
それがある意味、競馬の怖さだった。


そして、ここまで完璧だったクリークと悠。
残りは100m。
だが、馬群を割って猛然と追い込んできた馬がいた。
それは誰も注目してないまさしくダークホースだった。
G1パリ大賞典を勝ったものの、フロックと言われた馬。
ソーマレズが凄まじい勢いで追い込み、追い付き・・・
ぶち抜いたのだ。

ゴール前、それは後残り何mのことだっただろうか。
悠のみならず、誰もがクリークが勝つと信じてやまなかった。
その思いを打ち砕くように、ソーマレズはクリークを並ぶ間もなくかわし、トップでゴールを駆け抜けた。

「嘘だ……」

一瞬でソーマレズに交わされた瞬間、悠は絶句した。

豪脚で差し切り勝ちを見せたソーマレズ鞍上のモーゼは派手なガッツポーズ。

「こういうことがあるのが、競馬ですね………」

少しため息の混じる樹里。
それを微笑んで見ていたのは、マルベリー伯爵夫人キャサリンだ。

「2度目の貴女の挑戦は、嘲笑ではなく感嘆で迎えられていますよ」

彼女の言う通り、ラモーヌ以前は勝負にもならなかったのでわざわざ来なくてもと言う感じで現地では見られていた。
だが、ラモーヌの健闘で流れは変わり、日本ではまだ駆け出しと言っていい樹里と言うオーナーは、日本のトップオーナーであると言う認識をこちらではされるようになってきていた。
故に一定の敬意を持って見られていたし、クリークの健闘もこれぐらいやれるだろうと評価もされていた。

それは樹里だけでない。
やや呆然とした悠に声をかけたのは欧州の若き天才ランブランカ・デットリー。
ナイスファイトと馬上から声をかける彼に、少し戸惑いながらも覚えたての英語で返す悠。
悠と同年代がこんな大レースに乗っている事に驚きと親近感を覚えてしまう。

ブランキーの愛称で親しまれる彼は、イタリア出身の騎手一家に生まれた。
早くから頭角を表してイギリスを主戦場に活躍。
今年まだ十代にも関わらずG1を制覇した次代のスターである。

日本における悠と同様、その活躍ぶりに早くも彼の時代が来ると言われている若き天才。
そんな2人の姿を見て、競馬界の未来は明るいと思う者は多い。

「また来年も来いよ!」
「当たり前だ、来年はコイツで勝つんだ!」
血気盛んな若者同士、そう言葉を交わす。

次に向け闘志を燃やす悠。
しかし、日本に帰って来て早々、それがかなわないような事実に直面する。

クリークの激戦の代償とも言える、脚元の不安の報。

繋靭帯炎・・・
馬の負傷の中でも屈腱炎と並ぶ厄介なものだった。
一度起こすと再発しやすい傾向があり、この症状で引退する馬も多い。
当日のロンシャンの馬場の硬さも多少関係はあるかもしれないが、馬場云々より元々の体質や疲労度の関係の方が大きい。
つまり元から脚元の弱いクリークだけに、欧州での激闘続きが負担になったのだろう。

こればかりは悠も祈るしかない。
仁藤も体調次第ではこの秋は全休と言っていただけに回復が早いのを祈るばかりだった。


秋のG1連戦のシーズンが始まる。
その先陣を切るのは、牝馬クラシック最後の秋華賞だった。
そもそも本場イギリスに牝馬三冠路線は無い。
最終戦は牡馬と共にセントレジャーを走る事になるので、挑戦する馬が近年はほぼいない。
ただ欧州でもフランスではヴェルメイユ賞を牝馬クラシック最終戦に定め、アメリカでも年々変化はしているが牝馬三冠戦は存在する。
日本でもエリザベス女王杯が長年それを担っていたが、今は秋華賞が最終戦を担うために新設され、エリザベス女王杯は古馬牝馬にも解放されて秋の牝馬最強決定戦となっている。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す