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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 387

極端に速すぎるペースでもなければ、スローペースという感じでもない。
ただ、日本競馬特有の直線でヨーイドンというレースにはならないだろう、というのが悠の戦前の見立てだった。

サルサビルの前後にはインザグルーヴ、ヘレニックという同じく有力な3歳牝馬が陣取っっている。
前哨戦を楽勝したり、古馬相手に勝利を収めた実力を持っており、進出のチャンスを伺う。

ロンシャンのコースは最初は緩やかな上りが3コーナーあたりまで続き、その後は緩やかな下り。
4コーナーからは直線に差し掛かるが、これが最終直線の手前のフォルスストレートと呼ばれる部分だ。

先頭がそのフォルスストレートに差し掛かる。

偽りの直線と言われるこの部分は、いくらロンシャンの経験が薄くても人間ならまず騙されない。
騙されるとすれば、むしろ馬の方なのだ。

馬は賢い生き物である。
大概の競走馬はレースと言う概念を理解すると言われる。
賢い馬であればレースのやり方すら覚える。
故にそれこそが落とし穴になるのだ。

春の天皇賞でもある事だが、一周目のスタンド前でゴールと誤解する馬もいる。
それは賢いが故の弊害だが、同じようにこのロンシャンのフォルスストレートでもありうる訳だ。
ここを最終直線と勘違いし、加速しようとする・・・
だが、当然ゴールまでは遠く、届く前に力尽きる訳だ。

澪もラモーヌで凱旋門賞を経験していたが、前走のフォア賞でラモーヌは押し切ってしまったので、当の凱旋門賞ではここで行きたがってスタミナロスしてしまっていた。
その経験は澪から悠に引き継がれているが、実際乗ってみるとこのフォルスストレートは曲者だ。
クリークもフォア賞で賢い故に少し引っ掛かりはしたが、そこからかなり我慢させた。
それを覚えているのか、今回は反応が薄い。

これなら最後まで脚を持続することができる、悠はそう確信した。
先頭で飛ばすラビットの馬はこの時点でさらにペースを上げ、リードを広げていく。
ただし距離適性的にもここまでの馬で、次第にそのリードは詰まっていく。

クリークはロスのない内側で脚をためる。
その外から果敢に勝負に出た馬が2頭いた。

スタミナ自慢の3歳牡馬スナージと、血気盛んな若き天才・デットリーが操る4歳牡馬リーガルケースである。

どちらも実績は薄いが実力馬。
悠はそれを見ながらもじっくりとクリークを宥めて直線に賭ける。

フォルスストレートを抜けて最後のコーナー。
下り坂で勢いがつき、ここで馬群がグッと詰まる。
クリークは7番手程度の内側。
外には変わらずインザウイングス。

そして最後の直線。
約530mの直線はほぼ平坦。
最終コーナーの下りで勢いをつけこの直線に各馬挑む訳だが、早すぎる仕掛けだといくら平坦でも届かない。
クリークと悠は追走しながら、仕掛けたのは300m地点。
こここそが澪と練ったクリークの最適解だった。

クリークは悠の鞭に応え、グンと加速していく。
ラビットとやや勢いの削がれたリーガルケースを抜くのに手間取るが、やや強引に馬群を破る。
日本より馬の間隔を狭めるヨーロッパだと、これぐらい行かないと馬群を抜けられない。
これも澪から聞いていた通りで、悠は馬群をこじ開けるように抜け出すと、先頭集団に取り付く。

先頭はスナージ、そしてクリークにとってライバルと言えるインザウイングス。
そこにクリークが食らいついた。

3頭がまったく横並び。
スナージはスタミナ自慢の馬だがクリークならそれにも負けない自信が悠の中にはあった。
しかしインザウイングスともども、やはり実力馬だけあってなかなか脚がなくなる気配はない。

後方にいるベルメッツ、サルサビルは伸びを欠いていた。
これならあとは先行勢同士の我慢比べで、こちらが有利になる…悠は勝利に手が届くはずと思っていた……

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