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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 386

日本の競馬ファンにとっては思わぬ伏兵のエイミーの勝利に湧くスタンド。
エイミーにとっても異国の大レースを制した喜びは思った以上に大きかった。
今年溜まった鬱憤を全て吹き飛ばすような勝利だったのだ。
ウイニングランでスタンドに投げキッスまでしたのも、その興奮の証だった。

そして装鞍所に帰って、厩務員、理沙とハイタッチ。
馬に降りて寛子と抱き合い、オーナー代理の紗英と固い握手を交わす。
勝利インタビューは覚えたての日本語を交えながら、興奮のままに行ったのだ。


一方のフランス。
ロンシャンではいよいよ凱旋門賞が行われる。

本命は勿論、女傑サルサビル。
凱旋門賞は牝馬の斤量が優遇されており、牝馬の勝利も多い。
従って牝馬の一番人気は珍しく無いが、ここまで人気が集まるのは珍しい。
それに続くのはインザウイングスやベルメッツ、エペルヴィエブルー。
そしてそれに次ぐのがスーパークリークだった。

フランスに長期の遠征となるが、日本との行き来を繰り返している悠はフランスに来るたび「状態はよくなっている」と感じ、太鼓判を押す。
現地の評価もレースを使うごとにうなぎ上りだ。

「いよいよここまで来ましたな」
「そうですね」
「うちのスタッフはこの日のためにすべてを注いできましたから…結果を残してほしい反面、無事に日本に帰してやりたいとも思うんです」
「はい、私もそう思っています」

仁藤にとっても大きな挑戦だった。

天皇賞後からの遠征は無謀であるとか、オグリやイナリとの再戦を願うファンの声やら、海外挑戦は決して肯定的に受け入れられた訳では無い。
だが、コロネーションカップの健闘、キングジョージの惜敗・・・
そしてフォア賞での勝利を通して否定的な意見は消えつつある。

だが、重賞勝利はしたものの、G1では結果は出ていない。
相手は欧州の超一流馬ばかり。
簡単に勝てる訳は無い。

当日の天気は良く、所謂良馬場。
だがそれはここロンシャンにおいて良いコンディションと言えるかは別だ。
雨が降り重馬場になれば昆布が脚にまとわりつくとまで言われるロンシャンの芝だが、逆に天気が良過ぎるとカチカチに固まって脚の負担を爆上げさせる。
やや湿った程度と言うのがロンシャンで最も良いコンディションであり、それ以外だと乾き過ぎても湿り過ぎても走りにくいのだ。

フランスの馬場表記で行くと今日はレジェ。
乾燥状態の上から2番目であり、最大のトレ・レジェに比べるとマシな程度。
つまり相当に硬い馬場だ。

走れないわけではないが、懸念されるところではある。
クリークに勝ってほしい気持ちはあるが、一番はクリーク自身の体調であり、脚が最も大事なのだ。
だからこその「無事に」という言葉だ。


(今日の馬場は…相当きついな…)

レース当日早朝、悠はロンシャンの馬場を自らの足で歩いていた。

良馬場過ぎると逆に悪いコンディションとは、日本では考えられない話だ。
それは日本の競馬場が作られた造形であるのに対し、欧州の場合は自然を競馬場に当てはめたからと言うのも一つ。
それと湿潤な日本の気候は、ある程度の湿り気を大地に与えるのに対し、欧州の気候は乾燥が殆ど常であった。
勿論、これだけ乾燥していれば散水すると言う話だが、それが乾いた大地にどれだけ効果があるのかわからない。
日本では良馬場表記になる天候にこんな穴があるとは、初めての欧州遠征は悠にとって貴重な経験であったのだ。


朝に乾いた馬場を点検し、レース時刻が近づいてくる。
馬場状態はボン・レジェ・・・日本で言う所の良馬場に落ち着いてはいた。
クリークと本馬場に至った悠だが、やはり朝ほどで無いにせよ硬さは乗っていても感じてしまう。
とは言え、条件は皆同じだ。
やれる自信はある。

レースはラビットが逃げを打つ中クリークはインザウイングスと並んで4番手から5番手当たり。
ベルメッツやアサティスはその少し後ろ。
人気のサルサビルはその更に後ろと言う展開だった。

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