PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 383
 385
の最後へ

駆ける馬 385

やはり後ろからその騎乗姿勢を見ると、若いと言え侮れない事は分かる。

「惚れてまいそうな尻やで」

そんな事を言い笑うが、目は笑っていない。

河井は早くから海外トップクラスの騎乗を参考に自分の騎乗スタイルを見直していた。
それは共にしのぎを削った天才福山の天才故に行き着いた騎乗を目の当たりにしていたからだ。
天才ではなく努力の人である河井は天才福山とは違うアプローチで研究し、そして日本で最も理想的と言われる騎乗フォームを習得するに至った。
その美しくも実用的なフォームは、田沢や澪も真似し悠や関西の若手も取り入れているものだった。
間違い無く関西の若手の躍進は、河井がもたらした革新的なフォームが一因であるのは明白だったのだ。

その河井が舌を巻くエイミーの騎乗。
彼女にとっては普通の騎乗だ。
だが、河井からすれば若いエイミーですら会得している理想的なフォームを見ると、競馬の歴史の重みを感じずにはいられなかったのだ。

「マズいな、こりゃ」

名手河井がバンブーメモリーの良さを引き出す事を止めて、アクアパッツァを追いかけに行く。

いつもの末脚を生かす競馬をすれば勝てる・・・
その自身はレース前まではあったが、アクアパッツァに前であんなに楽に走られると流石にマズい。
アクアパッツァに跨った事は無いが、寛子は仁藤厩舎時代から親交があるし、調教の時に見て実力は把握している。
悠が乗っても強力な先行力を生かす競馬で強敵なわけだが、今日のアクアパッツァは更に気分良く走っている。
悠がデビューした時も幼少期から知ってる河井は、鷹が鷹を産むものだなぁと感心した。
そして、すぐに田沢や澪を超えて世界と戦える存在になれると思っていた。
だがやはり、世界は広いのだ。

バンブーメモリーがそんな河井に導かれて早めに動くと、後続勢に緊張が走る。
パッシングショットの楠木も慌てたように動くと、他の後続勢も前との差を詰めてくる。

アクアパッツァとエイミーはそれを気にしない。
隣のダイタクヘリオスは少しヒートアップして行きたがるのを岸田が必死に抑えている。
先行勢は動くに早すぎるが、後ろからのプレッシャーで徐々におかしな空気になり始めていた。

先頭はまだダイワダグラスだが、2番手ナルシスノワールの菅山が早めに並びかけてくると途端に手ごたえがなくなり失速。
ダイタクヘリオスはその後ろで、まだエキサイトしているのを宥めながら外へと持ち出しジワリと動き出す。
アクアパッツァは進路をどこに選ぶか。
エイミーは冷静に馬群から抜け出せるスペースを探る。

そのエイミーをマークして、すぐ後ろにつけたのがルイテイト。
外側からバンブーメモリー、パッシングショット、さらにシンウインドも上がり、レースの混沌ぶりが増していく。

電撃戦も勝負所の最終コーナー。
エイミーはアクアパッツァをスッと最内に入れる。
荒れた馬場故に少し開いた内側。
荒れた馬場でも走れると、そこに思い切って持っていく。
そして直線入り口で先頭に並んでいった。

そこからの叩き合い。
早め仕掛けのバンブーメモリーがグイグイと伸び、それにルイテイト、リンドホシの伏兵2頭が食らいつく。
パッシングショットとストロングクラウンは馬群の中から抜け出せず、ナルシスノワール、ダイタクヘリオス、シンウインドはさほど伸びない。
バンブーメモリーの脚はグイグイと加速していくが・・・
その2馬身先には、先に抜け出していたアクアパッツァがいたのだ。

荒れた馬場、中山の急坂。
決して良い条件とは言い難い。
だが、馬場の良い所を通ってきたバンブーメモリーは追いつけない。
これは早く仕掛け過ぎていた弊害・・・
アクアパッツァの余力は十分残ったままなのだ。

それでも少しずつ差を詰めていく。
河井も必死で追う。
一馬身、半馬身と詰めていくが、思った以上に差は詰まらない。

バンブーメモリー自体の伸びが鈍っているわけではない。
アクアパッツァはそれ以上に粘り、再び伸びを見せていたのだ。
馬場の真ん中を通っては同じく脚を溜めていたルイテイト。
むしろバンブーメモリーよりこちらの方が交わす勢いで来ていたが…

アクアパッツァは首差でこれらを凌ぎ切ったのだ。
先頭でゴールを駆け抜けた瞬間、エイミーは観客席に向けて高々とステッキを突き上げた。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す