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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 383

何かが気に入らすに荒ぶっている彼だが、恐らく色々な騎手があれこれ試しただろうし、厩舎側も色々手を打った筈だ。
それでも矯正できていない訳だが、むしろこれはよくある事である。

深い理由はテン乗りのエイミーには分からない。
だが、乗った感触や周囲を見ながら馬の特性を見極めていく。
その早さと正確性こそがエイミーの持ち味なのだが、ここでもそれは遺憾無く発揮された。


レースが始まりエイミーは馬群の中に突っ込ませる。
気の荒さ故に折り合いが付かない彼は、逃げるか最後方かの極端な戦術を取らざるを得なかったが、あえてエイミーは馬群の中を選択する。
すると不思議なぐらい折り合いがつく。

エイミーが見た所、警戒心の強い彼だが、その警戒心は馬より人に対する方が強い。
無論、馬に対しても警戒心はあるが、彼女はパドックの様子を見ながら彼が警戒心の薄い馬の側に付けたのだ。
故に馬群に突っ込んだと言うより、警戒心が薄く・・・
多分彼が好きな馬の側に居させる事で折り合いを付けた訳だ。

他の騎手は、今までこういうやり方を試してこなかったのだろう。
モニター越しで戦況を見つめる奥原や愛美は、いつもと走りが違うことにすぐ気づく。

馬群の中に馬を置いて、内目の柵ピッタリになるくらいの位置を走らせる。
リスクも大きいが、エイミーが選んだベストな戦法だ。

後退してくる馬を避けながら、わずかに空いたスペースに導いていく。
手綱を扱くとそれに応えるように、ぐんぐんと伸びていく。

その様子を前走まで乗っていた横平が驚いて見ていた。
横平の知る限りあの馬はズブい。
言う事を聞かない上にズブいから随分苦労した。
だが、エイミーが乗ると魔法のようにグングン伸びていく。
まだ若い彼には自分と彼女の騎乗の違いがわからなかったが、そこには大きな差があるのだけは理解できた。

エイミーはトントンとリズミカルに馬の上で身体をバウンドさせながら追う。
全身を使って馬の上で跳ね、それを推進力に変えていくテクニックはアメリカのダートの争いで培われた技術である。
キドニーバウンズとも呼ばれるこの技術は、ただ跳ねれば良いと言うものではなく、馬それぞれに合わせてリズムやタイミングを合わせてやる必要がある高等技術だ。
日本でも一部のトップジョッキーはこれを言語化できずとも概念的に理解していたりするが、ほぼそれは本人の感覚のみでやっているに過ぎない。
逆にアメリカでは技術として確立されているからこそ、若いエイミーですら使える訳だ。
勿論、この若さでマスターしているエイミーはアメリカでも天才と言われる部類であるが。

エイミーの巧みな騎乗技術に導かれたことで、これまでの競馬ぶりとは一変したような走りを見せつけることに成功した。
エイミーの来日2勝めは人気薄の伏兵による勝利。

「いやー、お見事だったよエイミー」
「ふふ、マナミ、彼はとってもいいファイターよ!!」

手を大きく上げる愛美に、エイミーは馬上からハイタッチ。
思い悩む事はあっても、彼女は基本的には陽気なアメリカ人なのだ。

「あれを見ると、まだ世界に追いついていないな」

そんな2人を、複雑な笑顔で見ていた奥原の独白・・・
正直勝てないと思っていたし、むしろ勝てない事でオーナーには次の決断を促す気ではあった。
だが、嬉しい誤算で勝ってしまった。
これだと次も期待されるが、とは言ってもエイミーは年末までしか居ない。
日本にも彼女に匹敵する騎手はいるが、こんなレベルの馬に中々乗ってくれない訳で・・・
変に期待されると馬が可哀想ではある。

勝ったのにこんな複雑な気分になるとはな・・・
奥原の複雑な笑顔は、そんな気持ちの表れだったのである。


そんなエイミーの勝利は、日本の騎手達にある種の緊張感を与えていた。
本日のメインレース、スプリンターズステークスにエイミーは本命馬、アクアパッツァに乗る。
まだ手の内を把握していない彼らにとって、エイミーは悠以上の難敵であるのだ。

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