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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 367

悠の歯切れの悪い言葉は、次は無いと言う気持ちからだったのだ。


衝撃の安田記念の後・・・
樹里はヨーロッパに向かっていた。

目的の一つは、スーパークリークの海外遠征。
クリークはアスコットで行われるコロネーションステークスに向けて現地で調整されていた。

天皇賞での勝利後、クリークの海外遠征は予定されていたが、その目標は宝塚記念をステップに秋の凱旋門賞と言われていた。
それが宝塚記念を回避してロイヤルアスコットデーに合わせてきたのは樹里の意向だが、理由があった。
大馬主の一人であるマルベリー伯爵からの招待があったからだ。

マルベリー伯爵は、大馬主でありスノーベリー牧場の実質的なオーナーでもある。
それだけでなくスタリオンも所有しており、その代表的な繋養種牡馬はダンシングブレーヴである。
現当主アルフレッドは樹里と同世代で、面識は無いがスノーベリー牧場を通して互いを知ってる関係だった。
その縁を使ってダンシングブレーヴの購入を持ちかけた所、今回の海外遠征の招待と共に会いたいとの打診があった訳だ。

マルベリー伯爵家は、アイルランド貴族であり英王家とも繋がりがある名門らしい。
アイルランドで多くの事業を成功させ、馬主業でも有名であった。
現当主のアルフレッドもやり手であると樹里は聞いていた。

レースに先立ちアイルランドのマルベリー伯爵家に向かった樹里。
同行するのは交渉の仲介役として祐志、そして受け入れる牧場側として参加のエリックと幸子だ。
特に幸子は海外が初めてらしく、少し不安げではあった。

その伯爵家はスノーベリー牧場からそう離れていない所にあるまさに西洋風の城塞だった。
エリックに聞くと、実際に戦争にも使われていた城塞らしく、小高い丘の上にしっかりとした城壁もあった。

その城館に到着し、案内された応接室。
重厚で戦争に使われていた城館らしくシンプルでもあった。
そこに夫人を伴い現れたアルフレッドは、エリックとよく似た青年だった。

「よくお越しを、マダム」

流石貴族と言う物腰。
エリックとは異母兄弟と言うのを先に聞いていなければビックリするぐらい見た目は似ていた。

スノーベリー牧場の牧場主は代々女が務め、彼女達は代々のマルベリー伯爵家の愛人でもあった。
ただエリックの母のルイーズは多くの子を産んでいるが、伯爵家の血を引いているのはエリックほか少数らしい。
そして姉のアネットは伯爵家の血を引いていない女で長女だから後を継いだようだ。

まるで繁殖牝馬扱いよねと思う樹里だが、エリック達も涼風ファームで同じ事をやっているから彼らの伝統なのだろう。
色々思う所はあるが、幸子達は凄く幸せそうなので黙ってはいる。
その本場であるスノーベリー牧場の女達も何度か見て凄く幸せそうだったから、奈帆を預けたのもそれがあったからだ。

そのアルフレッドと共に入ってきた伯爵夫人は若く綺麗な人だった。
彼女もどこぞやの貴族令嬢らしい。
ヨーロッパの貴族は浮気や愛人なんて当たり前の世界だから、意外と平気なのかしらとニコニコしている彼女を見る樹里だった。

「彼は不治の病だからこそ・・・価格ではなく、信頼できるかで決めたい」

ダンシングブレーヴ購入交渉に入り、アルフレッドからそんな風に言われる。
その為のエリックと幸子の参加なのだ。

ダンシングブレーヴが罹患したマリー病。
イギリスのサラブレッドの中でもその症状をきたす馬はそんなに多いわけではなく、今年はたったの5頭。
その内の1頭が欧州最強の1頭とも呼ばれたダンシングブレーヴだったのだ。

ダンシングブレーヴの初年度産駒は今年の2歳世代。
ヨーロッパでも2歳戦が始まったばかりだが産駒の評判はすこぶる良いわけではない。

いや・・・
彼の実績からすると期待外れもいい所で、2歳馬だけでなく1歳馬からも基準以下の競争能力しかいない程であった。
今の所、二流種牡馬の方が産駒の能力が高いと言われてしまう始末・・・
晩成の可能性もあるが、それを確かめる時間は残されていなかった。

それは勿論、マリー病のせいである。
罹患して受胎率が大幅に下がった上に、産まれてきた産駒が期待外れな事もあり繁殖牝馬が集められなくなってきた。
スノーベリー牧場だけで種付けするにしても低い受胎率では採算は全く取れず、病気のケアを考えると維持費もかかる。
今や欧州最強の勇者は唯の厄介者になっていたのだ。

つまり樹里からの申し出は厄介払いにもってこいで、世話をするのは信頼できるエリックな訳だから安心ではある。
それでも欧州競馬にとってもアルフレッドにとっても特別な馬なだけに、おいそれとは売却する事はできない。
アルフレッドは知っていても、欧州競馬界は樹里も涼風ファームも知らないのだ。

「それ故の、コロネーションカップの招待なのですよ」

アルフレッドが貴族らしい優雅な笑みで言う。

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