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駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

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駆ける馬 366

その気になれば逃げる競馬だってできるだろう。
だがそれをやってしまうとその後のレースで制御が利かなくなるタイプの馬のようにも感じる。
何も考えていないようで繊細なところもある馬だ。

道中はこのままじっくり構えて、直線でどこまで弾けてくれるか。
悠はそう考えてレースを運んでいく。

しかし、速いペースの中で追走しながら脚を溜めるのは真反対の行為だ。
だが、今回はオグリキャップに乗るのは悠である。
先行する事でロスの無いコースを取れる上に、効果的に手前替えを行いスタミナを極力温存させている。
それだけでなく、彼が澪から学んだ術・・・
当たり柔らかく馬をリラックスさせる。
精神的にも肉体的にも後半に余力を残すように組み立てていく。
言葉で言えば簡単だが、それを出来るのが彼が天才所以である。

大欅を過ぎて逃げ馬にスッと並びかける。
ロスなく内側のいい所を走りながら、外の更に良い所に馬を出してゆっくりと並んでいく。
先導ごくろうさんとばかりに微笑む悠だったが、まだ抜け出しはしない。
そのまま直線に向かいつつ、後ろが近付いてくるのも感じていた。

先行泣かせの長い直線。
だが、直線入ってすぐに悠は鞭を出す。

「さあ行こう、怪物くん」

彼の言葉を理解したように、悠の鞭でグンと沈み込んでターフを低く跳ぶ。
先行していたとは思えない程の加速で一気にトップスピードに入った。

「なんだと!?」

それに驚きを隠せなかったのはシンウインド鞍上の南だ。
外から並んで追走していて、同じように追い出しを開始しようと思ったら、一瞬で水を開けられた。

もう一段ギアを隠し持っていたうえに、他とは搭載されているエンジンが違うかの如く加速していくオグリキャップ。

シンウインドの後ろからオサイチジョージ、ヤエノムテキが追いかけるが、オグリとは2,3馬身差があった。

速いペースの中での先行、長い直線での早めの抜け出し。
普通なら脚が持たない・・・
それは全ての人が思っただろう。
だが、オグリキャップは普通では無い。

(賢い馬だよなぁ・・・)

鞍上の悠も感心するしかない。
調教から乗っていたが、調教では良い馬だがクリークの方がもっと良いとか思いつつ乗っていた。
だが、それは澪が言った通り調教とレースをオグリキャップ自身が理解して使い分けている・・・
と言うか、レースでしかスイッチが入らないと言うタイプだ。
そしてスイッチの入ったオグリキャップは、正真正銘の怪物だった。

悠は感心しつつ戦慄もする。
彼はスーパークリークがオグリキャップ以上の怪物だと思っていたし、オグリキャップを負かせる自信は常にあった。
だが、オグリキャップに乗り彼の本気を体感した瞬間、その認識が吹き飛んだ。

オグリキャップは本物の怪物だった・・・

悠が戦慄で身を震わせる中、最後まで力強く走り抜けたオグリキャップがゴール板を先頭で通り過ぎたのだった。

「いやホント、思った通り…思った以上に凄い馬でしたね」

勝利騎手インタビューで悠はそう語る。
少しだけだが手がまだ震えていた。
興奮をやっとのことで抑えながら話す。

インタビュー後、ある記者からオグリが次は宝塚記念に向かうと悠は聞く。

「そうですか。次は……うーん、楽しみですね」

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