PiPi's World 投稿小説

駆ける馬
官能リレー小説 - スポーツ

の最初へ
 354
 356
の最後へ

駆ける馬 356

カシマウイングと並走して走るクリークと悠。
この長距離レースで重要なポイントは何にも置いて経験である。

史上初めて二頭の三冠馬が激突した年に始まった日本競馬の大転換期。
グレート制導入や、それに伴うレース改変により長距離レースの多くが廃された。
一般的に距離が長い程、駆け引きの比率が増えてくる。
故に長距離レースが減った昨今、長距離レースを制するのはほぼベテランになっている。
駆け引きに必要な経験がレース数が少ない故に獲れる機会が減ったのだ。
つまりG1最長距離の春の天皇賞を買った澪や、最年少制覇の悠は異常な存在と言えた。

そんなベテラン並みの駆け引きができる悠。
彼はこの流れを読みながらクリークを走らせる。
ほぼ平均ペースはクリークにとって有利。
だが、油断はできない。
相手はあの破天荒な怪物、イナリワンだからだ。
そのイナリワンは中団で折り合っていたのだ。

ベテラン柴原は長距離戦を得意としている。
ライバル岡江と比べると不器用に見られがちな柴原だが、騎乗技術だけでなく駆け引きも一流であった。

岡江が堅実派なら、柴原は大胆な方。
しかしどちらも騎乗技術に優れた男であり関東のトップジョッキーだ。

向こう正面から勝負どころの2周目の淀の坂。
まだペースは上がらず淡々と進む。
ミスターシクレノンが逃げ、クリークは3番手からじっくり追う。

ミスターシクレノンのスタミナは十分とわかっているが、2番手のショウリテンユウがどこまで持つかがわからない。
後ろの動きも把握しながら悠は仕掛けるタイミングを考える…が。

イナリワンはじわじわとクリークの背後に迫っていたのだ。

若手ながらベテランに匹敵する駆け引き上手の悠だが、同じ駆け引き上手の澪との違いは、彼女が感覚的に相手の手を読むのに対し、悠は理論的に読むと言う所だ。
その悠は柴原の手を理論で読んでいた。

恐らくだが、スタミナに不安が無いイナリワンは坂に入るまでに前との差を詰めてくる。
そして、好位で直線の瞬発力勝負に持ち込む。
それは昨年の天皇賞で悠がイナリワンを勝利に導いたのと同じ戦術・・・
経験豊富な柴原だからこそ、むしろその手を使ってくると見ていた。
田沢や澪のように感覚的に乗る相手の方が読みにくいが、大胆な柴原であっても突拍子の無い手は打ってこないと見ていた。

故に悠もオーソドックスに攻める。
迎えた淀の坂を定石通りにゆっくり登り、ゆっくり下る。
隣のカシマウイングから少し遅れ、イナリワンとの距離が縮まるが気にしない。
何故なら、去年のイナリワンの勝因はスーパークリークがいなかったからと思っているからだ。

直線に入った所で、イナリワンはスーパークリークを捉えれる距離。
柴原の理想通りの位置だ。

イナリワンの脚音が悠にも聞こえる…柴原からの計り知れないプレッシャーを感じつつも……

ここで仕掛けたら差される

悠はそう考え、あくまでいつも通り冷静に乗ることだけ考えた。
ミスターシクレノン、ショウリテンユウ、3番手がカシマウイングでクリークは4番手。
その後ろまで迫るイナリワン。

勝負は直線での追い比べに持ち込まれる。

これこそが柴原の描いたレースプラン。
この日のイナリワンは完璧な折り合いでここまで来ていた。
もうこれ以上に理想的な展開は無かった。

ただ・・・
柴原も含め悠以外の全員に誤解があった。
秋の天皇賞と大阪杯の中距離G1を2勝したスーパークリークは、一般的に強力な先行力を持ったスピード馬の印象を持たれがちになっている。
それはクリークの魅力の1つだが、そればかりではない。
クリークには長距離G1、菊花賞を制したスタミナがあり・・・
何よりその菊花賞は差し切り勝ちしているのだ。

イメージや固定概念は恐ろしいもので、スーパークリークは先行力の反面、瞬発力に乏しいと思われがちだ。
だが、その雰囲気こそが逆に悠の武器だったのだ。

京都の長い直線の瞬発力勝負。
馬群から抜け出すスーパークリーク。
イナリワンも追いかけるが、2頭の加速力はほぼ同じだった。
瞬発力が同じなら、勝負を分けるのは直線での位置取り。
先んじて抜け出し、馬場の良い位置を走るクリークにアドバンテージがあった。

SNSでこの小説を紹介

スポーツの他のリレー小説

こちらから小説を探す